半世紀の沈黙をやぶり、ワルシャワに甦るドイツの名器の響き――ベヒシュタインが第19回ショパンコンクールにカムバック

 10月2日に開幕を控える、第19回ショパン国際ピアノコンクール。本大会の中でも大きなトピックの一つが、C.ベヒシュタインのコンサートグランドピアノ「D-282」が1975年以来、実に50年ぶりにその舞台に登場することだ。前大会ではスタインウェイ(2台)、ヤマハ、カワイ、ファツィオリの4社のピアノメーカーが楽器を供給していたが、今回そこに唯一のドイツ企業として加わることになる。

 1853年にベルリンで創業され、170年以上の歴史を誇るベヒシュタイン。リスト、ドビュッシー、ラフマニノフなど大作曲家にインスピレーションを与えるとともに、古くはヴィルヘルム・ケンプ、ヴィルヘルム・バックハウスから、現代のミシェル・ダルベルト、アブデル・ラーマン・エル=バシャらに至るまで、数多くのピアニストに愛されてきた。ショパンコンクールには1927年の第1回大会から参加。第二次大戦期には戦争の影響を強く受け、空襲による工場への被害、そして戦後の連合軍管理下での企業活動の制限などを経験したが、そうした厳しい状況下でも定期的にピアノを提供し続けていた。しかし、1970年代半ばに外国メーカーによる買収を受けたことで、経営の主導権が失われ、75年大会を最後にショパンコンクールの舞台から姿を消すこととなる。

ベヒシュタインのピアノとともに――ヴィルヘルム・バックハウス
ベヒシュタインのピアノとともに――ミシェル・ダルベルト
©Jean Philippe Raibaud

 その後、80年代後半にドイツ人のピアノマイスター、カール・シュルツェが経営権を買い戻したことを契機として、体制の再構築が進められていく。世界的な販売網が整備される中、ショパンコンクールの開催地となるワルシャワの有力ディーラーの存在が、復帰の大きな決め手となったという。このディーラーにより近年、地元の音楽大学へセミコンサートピアノ「C-234」の導入が行われ、関係者から高い評価を獲得するとともに、店舗にもコンクール用のフルコンサートモデルが設置され、コンテスタントが試奏できる機会が設けられるようになった。加えて同コンクールでは2018年、ピリオド楽器部門が新設されるなど、ショパンが求めた表現を探る試みが深まっている。こうした潮流が、ベヒシュタインが追求するピアノ芸術の方向性と重なったことが後押しとなり、再びショパンコンクールの舞台へと返り咲くこととなった。

日本における旗艦店、「ベヒシュタイン・セントラム 東京」。
ショールームには同社の主要モデルがずらりと並べられている。

 今回のコンクールに提供されるコンサートグランドピアノ「D-282」は、熟練した技術を誇る職人と国際的なピアニストの綿密な議論を経て開発された、同社の最上位モデルだ。ベヒシュタインのピアノに共通する「濁りのない透明な響き」「多彩な音色の変化」「演奏者の高度な要求に確実に応える正確さ」などの特徴はそのままに、大規模なコンサートホールでも力強いサウンド、そして繊細なピアニッシモを最後列まで届けることができる。ピアニストの個性を際立たせる「D-282」を前に、狭き門をくぐり抜けたコンテスタントたちがどのようなショパンを描き出すだろうか。

文:編集部
協力:ベヒシュタイン・ジャパン

ベヒシュタイン・ジャパン 公式サイト
https://www.bechstein.co.jp


【Information】
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025 優勝者リサイタル
2025.12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
2025.12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

第19回ショパン国際ピアノ・コンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/27(火)、1/28(水)18:00 東京芸術劇場 コンサートホール
2026.1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール

出演
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール入賞者(複数名)、アンドレイ・ボレイコ(指揮)、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

他公演
2026.1/22(木) 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)
2026.1/23(金) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
2026.1/24(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/25(日) 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/29(木) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)