指揮とピアノの二刀流、大井駿がびわ湖ホールで弾き振りを披露!

大井 駿 ©Great The Kabukicho

 大井駿(1993年東京生まれ)が10月11日、びわ湖ホール主催「名曲コンサート 華麗なるオーケストラの世界 vol.8」で指揮者&ピアニストとして、日本センチュリー交響楽団と初共演する。大井はザルツブルク・モーツァルテウム大学などでピアノと指揮、ミュンヘン音大とバーゼル・スコラ・カントルム大学院で古楽全般とフォルテピアノを学び、2010年代末から指揮活動を本格化。22年の第1回ひろしま国際指揮者コンクールで第1位、25年のハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門(アルメニア)で第2位を得るなど、ここ数年で急速に頭角を現してきた。

 今回は前半がベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番、後半がブラームスの交響曲第4番と“4”尽くしのプログラム。「琵琶湖のほとりにある、日本屈指の素晴らしいホールであることをかんがみて、まず、ブラームスが思い浮かびました。彼は湖が大好きで、湖畔に住んで着想を得ていた作曲家ですから。中でも私にとって思い入れの深い交響曲第4番を選ばせていただきました。この曲はバッハ、ベートーヴェンから大きな影響を受けた作品であり、ブラームス自身が最も演奏したベートーヴェンの作品であるピアノ協奏曲第4番を組み合わせたのです」と、大井は選曲の背景を語る。ベートーヴェンの協奏曲には作曲家自身以外による多くのカデンツァが存在するが、今回は滅多に演奏されないブラームスのものを弾く。「ベートーヴェンに抱いた尊敬の念が非常によくわかるうえ、第1楽章のテーマをB-A-C-H(バッハ)に変化させ、展開しているのも一つの聴きどころです」。

日本センチュリー交響楽団 ©井上嘉和

 筆者が大井の弾き振りを最初に聴いたのは2017年7月、ベートーヴェンの「ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲」だった。まだ初々しさの先立つ感じだったが、広島のコンクール優勝後の24年2月の「都民芸術フェスティバル」で東京都交響楽団を指揮した演奏会では格段に統率力を上げ、メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」で中欧風のダークな音色を引き出す手腕にも感心した。大井自身、「オーストリアでは10年以上、人生の約3分の1を過ごしています。さらにドイツの大学に通い、プロテスタントに根差した厳格さも知りました。自分がドイツやオーストリアで過ごす時間を通じ、その文化の奥深さ、音楽が育まれてきた土壌の豊かさに強い魅力を覚えています」と、ドイツ=オーストリア音楽への愛着を自覚する。

 弾き振りの醍醐味についても訊いてみた。「指揮者単体では自身の音で語ることも、アンサンブルに加わることもできません。指揮者も一緒に楽器を演奏することで新たな調和が生まれ、垣根を超えてオーケストラの一部となれます。本当の意味で、オーケストラが大きな室内楽になれるのが醍醐味です。第4協奏曲の初演自体がベートーヴェンの弾き振りでしたから、ごく自然な成り行きかもしれません」。

 クラシック音楽の醍醐味の1つは、アーティストが新人から中堅、巨匠・大家へと熟成するプロセスに“伴走”できる点にある。ピアノと指揮の両分野で潜在能力を大きく開花させつつある大井駿の「旬」をいち早く、びわ湖ホールで味わっていただきたい。

文:池田卓夫

(ぶらあぼ2025年9月号より)

名曲コンサート 華麗なるオーケストラの世界 vol.8
大井 駿(指揮/ピアノ) 日本センチュリー交響楽団
2025.10/11(土)15:00 びわ湖ホール 大ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 

https://www.biwako-hall.or.jp/


池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com