9月来日ツアー! チョン・ミョンフンが語るミラノ・スカラ座フィルとの絆

©Silvia Lelli

 東京フィルハーモニー交響楽団名誉音楽監督としてお馴染みの韓国人マエストロ、チョン・ミョンフンが2026年末からミラノ・スカラ座の音楽監督に就く。今年9月に予定されるスカラ座フィルハーモニー管弦楽団との日本ツアーの注目度も一気に上がった。チョン・ミョンフンは現在、同楽団名誉指揮者の立場にある。

 「私はこれまですべての経験を通じ、それぞれの結びつきをとても強く、大事にしてきました。現在は極めて少ない数のオーケストラとしか仕事をしません。スカラ座フィルを最初に指揮したのは1989年です。私がバスティーユのパリ国立歌劇場の音楽監督に就いたのと同じ年なので、はっきりと覚えています。世界数多くのオーケストラと共演してきた中でも、36年間の切れ目ない関係は最長です。出会った瞬間から特別な結びつきを直感、お互いを非常によく理解できる特別な関係へと発展しました。“best friend”(最良の友)と呼べる存在です」

 スカラ座フィルはリッカルド・ムーティが音楽監督だった時代から来日を重ねてきたが、曲目はイタリアの枠を越えて多彩だった。「イタリア音楽はオペラが主役で、交響曲はとても限られますから、コンサートではドイツ=オーストリアやロシア&東欧の作品も幅広く手がけます。しかしながら、基本はオペラのオーケストラなので特別な音楽のクオリティが備わり、とても美しく歌うのです。特に第1ヴァイオリンの歌心は素晴らしい! 人間の歌う声に近いサウンドです」と惚れ込む。今回の日本ツアーでは、後半の交響曲にチャイコフスキーの第6番「悲愴」およびブラームスの第4番を選び、ソリストの藤田真央はラフマニノフの第2番、ベートーヴェンの第4番とピアノ協奏曲の傑作2曲に挑む。

 「藤田さんとは初共演ですが、テレビで彼が独奏する協奏曲を視聴し、真の才能にあふれた音楽家と確信したので、とても楽しみです」

 韓国とイタリアの間には半島、唐辛子、ニンニク、「強い母」など多くの共通点がある。マエストロも「私のイタリア愛は深いですよ。イタリアで最初の仕事は1982年、5年後の87年にはフィレンツェ歌劇場(現フィレンツェ五月音楽祭劇場)の首席客演指揮者に就任しました。イタリアと韓国は、食べ物や家族のあり方など多くの点を共有しています。韓国の釡山で2027年に完成する予定の新しいオペラハウスでは、総裁格のポストに就くことが決まっていますが、私の音楽劇への深い傾倒を示すため、メインの劇場は『テアトロ・ヴェルディ』と命名、アジアにおけるイタリア歌劇の殿堂を目指しています」といい、かなりの思い入れをみせる。

 スカラ座のシーズン幕開けはミラノの守護聖人である聖アンブロジウスの日、毎年12月7日と決まっている。マエストロ・チョンの監督初仕事も2026年12月7日。

 「新しい総裁のフォルトゥナート・オルトンビーナはヴェルディを専門とする音楽学者であり、フェニーチェ劇場でも数多くの上演を一緒に手がけてきました。そろってミラノで始める最初の仕事には今のところ、ヴェルディの《オテロ》が良いと考えています」

取材・文:池田卓夫

(ぶらあぼ2025年7月号より)

チョン・ミョンフン指揮 ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:藤田真央
2025.9/22(月)、9/24(水)各日19:00 サントリーホール(9/22完売)
問:テンポプリモ03-3524-1221 
https://tempoprimo.co.jp

9/23(火・祝)14:00 横浜みなとみらいホール(完売)
問:神奈川芸術協会045-453-5080 
https://kanagawa-geikyo.com
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

他公演
2025.9/20(土) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)
9/26(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)
9/27(土) フェニーチェ堺(072-223-1000)


池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com