藤岡幸夫&東京シティ・フィルの定期公演に人気ヴァイオリニスト木嶋真優が登場

木嶋のために書かれた協奏曲を東京初演

左:藤岡幸夫 ©青柳 聡
右:木嶋真優 ©Kazumi Kurigami

 「独立自尊」と言ったのは福澤諭吉だ。本邦の指揮者でその言葉にもっともふさわしいのは藤岡幸夫だろう。関西フィルハーモニー管弦楽団総監督にして、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団首席客演指揮者。東西のオーケストラで個性的な演目を次々と実現し、聴き手の耳を喜ばせる。

 このたびは東の仲間、東京シティ・フィルとともに興味深い演奏会を催す。福澤諭吉の言葉を受けて「『独立』友呼べば『自尊』と我応え」と詩にしたのは藤浦洸だが、その詞章そのままに、藤岡のもとには“友”が集まる。ヴァイオリニストの木嶋真優と作曲家の林そよかがそうだ。藤岡と木嶋は2024年、関西フィルの演奏会で林のヴァイオリン協奏曲「Starburst」を世界初演している。和声を支えにして豊かな情感を紡ぐ音楽は、藤岡の得意とするところ。このフレンドシップが東京で再びひとつとなる。

 その観点から眺めれば、演奏会の冒頭を飾る芥川也寸志の「交響管弦楽のための音楽」もまた、藤岡のリレーションシップを感じさせる演目だ。芥川と指揮者の師・渡邉曉雄は同時代を生き、手を取り合って日本の戦後音楽を盛り立てた。ふたりの友情もまた、藤岡にとってかけがえのない関係に違いない。

 そこから一気にチャイコフスキーの交響曲第5番まで友愛の翼を伸ばす。たしかに林作品も芥川作品も、溢れる叙情性の点でロシアの巨匠と相似形を描く。21世紀まで続くリリシズムの系譜をしかと聴き届けたい。

文:澤谷夏樹

(ぶらあぼ2025年7月号より)

藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
第83回 ティアラこうとう定期演奏会 
2025.9/13(土)15:00 ティアラこうとう
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
https://www.cityphil.jp


澤谷夏樹 Natsuki Sawatani(音楽評論家)

慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了(いずれも音楽学)。〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞および本賞受賞。著書に『音楽家65人の修行時代』ほか。国際ジャーナリスト連盟会員。