“非日常”の楽しさを、これほど満喫させてくれる音楽祭は、滅多にない。霧島国際音楽祭は、今年36回目を迎えた“日本で最も歴史のある音楽祭”。今は亡きG.ボッセが主体となって1980年に始まり、2001年から堤剛が音楽監督を継いでさらに発展。現在は、講師&演奏家約60名と内外からの受講生約150名が霧島に集い、コンサートとマスタークラスを両輪に、2週間にわたって音楽の祭典を繰り広げている。また近年は、県内各地での公演も増加。さらには、13年に東京、14年には台湾での公演も大成功を収めるなど、更なる広がりをみせている。
メイン会場の「みやまコンセール」の音響やホワイエからの景観も最高だし、自然豊かな霧島は、風情ある宿や様々な施設を有する日本屈指のリゾート。温泉三昧にも浸れる上、鹿児島は“酒”と“食”の宝庫ゆえに、楽しみは尽きない。
今年のコンサートで一番に触れておくべきは、音楽監督・堤剛が1公演で聴かせる「バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会」。まずは円熟の至芸による深遠な“チェロのバイブル”を傾聴しよう。
昨年圧巻の名演を残したエリソ・ヴィルサラーゼが、当地を気に入り、今回の来日公演をこちらだけで開催するのも大きな話題。彼女は、リサイタルと室内楽の双方で、楽曲の本質を抉る。女性陣ではもう一人、清澄な歌声を誇るトップ・ソプラノ、アンドレア・ロストも聴き逃せない。2年前に急病で同音楽祭不参加となっただけに、待望の初登場だ。彼女は、鹿児島市内の「ザビエル教会コンサート」にも出演。自身の人生を語りながら、思い出深い曲を披露する。
嬉しいことに近年はヴァイオリンの樫本大進がたびたび参加。今年はプロデュース公演も行い、ヴィルサラーゼとのデュオや、これまた初参加が注目される俊英ピアニスト、小菅優をまじえた室内楽など、他ではなかなか聴くことができないコラボが実現する。
そしてメインの一つが、音楽祭を彩る一流演奏家が揃った超豪華オーケストラ「キリシマ祝祭管弦楽団」。地元出身の名指揮者・下野竜也が継続しているベートーヴェンの交響曲は、今回第4番が演奏される。これにシューベルトの交響曲第5番、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第2番(本公演には4年ぶりの出演となる樫本大進のソロ!)を加えたプログラムは、すべてがチャーミングだ。
また名匠・高関健のもと、演奏家たちと優秀な受講生たちが最後を飾る「ファイナル・コンサート」も見逃せない。例年披露するドイツの名曲に加えて、世界的名ピアニスト、ダン・タイ・ソンがソロを弾くラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」が大注目。当音楽祭に再三参加してきた彼が、霧島で協奏曲を弾くのは、意外にも今回が初となる。
このほか、様々なアーティストによるプロデュース企画「音楽の散歩」や、黎明館など歴史的会場での公演など、すべてを書くのはもはや不可能。重要な柱であるマスタークラスも一般公開されており、一流講師の指導に触れるのも貴重な体験となる。
できれば何泊かして、温泉に入り、散策を絡めつつ音楽三昧に浸れれば最高だが、短期滞在でも、県内で都合のつく公演を聴くだけでもOK。とにかく行く甲斐は絶対にある!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年7月号から)
7/15(水)〜8/2(日) 霧島国際音楽ホール(みやまコンセール)、宝山ホール、鹿児島市民文化ホール、ザビエル教会 他
問:霧島国際音楽ホール0995-78-8000/ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
※音楽祭の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.kirishima-imf.jp