名ピアニスト、サー・スティーヴン・ハフがカーチュン&日本フィルと挑むブラームスの大作

左:カーチュン・ウォン ©Ayane Sato
右:サー・スティーヴン・ハフ ©Sim Canetty-Clarke

 いま熱い注目を集めるコンビが、首席指揮者カーチュン・ウォンと日本フィル。シンガポール出身のカーチュンは、オーケストラに新しい時代をもたらしつつある。第770回東京定期では、芥川也寸志、ブリテン、ブラームスを組み合わせた興味深いプログラムが組まれた。

 芥川也寸志の「エローラ交響曲」とブリテンのバレエ音楽「パゴダの王子」組曲の2曲には、このコンビならではのアジアへの眼差しが反映されている。「エローラ交響曲」の作曲のきっかけとなったのはインドのエローラ石窟群。作曲者は地上に建造するのではなく、地下に彫り込まれた大寺院を目にして、足し算ではなく引き算の作曲法があるのではないかと発想して、この曲を書いたという。だが作品はきわめてパワフルで、アジア版「春の祭典」と呼びたくなるような雄弁さを持っている。一方、ブリテンの「パゴダの王子」はインドネシアのガムラン音楽に触発されて書かれた作品だ。西洋人が作り出したアジアの物語世界を、アジアの指揮者とオーケストラが再現するおもしろさがある。ブリテンのあまり演奏されない曲を聴けるという意味でも貴重な機会だ。

 ブラームスのピアノ協奏曲第1番では、カーチュンの強い要望にこたえてサー・スティーヴン・ハフが独奏を務める。今や大家と呼ぶべきトップクラスの実力者が、異例のスケールを誇るピアノ協奏曲にどう挑むのか。カーチュンと日本フィルの勢いも加わって、かつてない鮮烈なブラームスを聴けるのではないだろうか。

文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2025年5月号より)

カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団
第770回 東京定期演奏会 
2025.5/9(金)19:00、5/10(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp