
ウラディーミル・ユロフスキとベルリン放送交響楽団は、ドイツの首都の音楽シーンにもはや欠かせない存在になっている。2017年にユロフスキが首席指揮者兼芸術監督に就任すると、このコンビはベートーヴェン、マーラー、R.シュトラウス、新ウィーン楽派などのレパートリーで、作品の内奥に切り込む演奏を聴かせてきた。ユロフスキは21年からバイエルン国立歌劇場の音楽総監督を兼任しており、シンフォニーとオペラの両方をベースに活躍を続けていることが、それぞれの仕事の質を高め合っているのは間違いない。
そんな彼らが今シーズン重点を置いているのがブラームスである。ブラームスの交響曲、協奏曲、合唱などを、周辺の作曲家の作品と組み合わせた魅力的なプログラムを展開している。
例えば、昨年12月に行われた定期公演で、ユロフスキはブラームスにベートーヴェン、シェーンベルクの二人を対峙させた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番では、内田光子がこの楽団に初登場し、作曲家の化身となったかのような至芸を聴かせた。ユロフスキとベルリン放送響の分厚く、緻密な響きの伴奏もすばらしい。ベートーヴェンの前には、ブラームスから大きな影響を受けたシェーンベルクの「主題と変奏」が演奏され、最後はブラームス初期の大作「セレナーデ第1番」で締めくくるというユニークなプログラムだった。
ブラームスという一人の作曲家に重点を置きつつも、彼がどういう影響を受けて作品を書き、それらが歴史の中でどう位置付けられるのか。ユロフスキのプログラムにはそんな俯瞰的な視線が感じられる。それでいて、コンセプトが先行するプログラムが陥りがちな、無味乾燥な演奏には決してならないのがこのコンビのいいところだ。
2019年以来久々となるこの5月の来日公演では、ブラームスの交響曲第1番(5/10, 5/11)と第4番(5/8, 5/12)を核にしたプログラムを日本の聴衆の前で披露する。ブラームスというドイツ音楽の大家を音楽史の流れの中で捉えようとする彼らの演奏は、幅広い音楽ファンを魅了するものになるだろう。
プログラム前半では、辻井伸行の独奏でショパンのピアノ協奏曲第2番が演奏される。辻井が弾くショパンの協奏曲というと、筆者は2017年5月、彼がベルリン・ドイツ交響楽団の定期演奏会に初めて招かれ、ウラディーミル・アシュケナージ指揮でこの「第2番」を共演した演奏会が懐かしく思い出される。あの頃はまだ初々しさが残っていた辻井だが、この間着実に成熟を深め、ついに名門ドイツ・グラモフォンと専属契約を結ぶまでに至った。ユロフスキとは17年にロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との日本ツアーでも、チャイコフスキーとラフマニノフのピアノ協奏曲を共演している。年月を経て実現するユロフスキと辻井の再共演では、どんな魅惑的な時間が待っているだろうか。
文:中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)
(ぶらあぼ2025年3月号より)
ウラディーミル・ユロフスキ指揮
ベルリン放送交響楽団 ピアノ:辻井伸行
2025.5/8(木)18:45 愛知県芸術劇場 コンサートホール
問:東海テレビチケットセンター052-951-9104
5/10(土)14:00 所沢市民文化センター ミューズ アークホール
問:チケットスペース03-3234-9999
5/11(日)14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
問:ABCチケットインフォメーション06-6453-6000
5/12(月)19:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://avex.jp/classics/rsb2025/
※公演日によりプログラムが異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。