イ・ミョンヒュン(テノール)

歌うことで多くの人を勇気づけ、癒したいと願っています

 ドイツのベルテルスマン財団が1987年から隔年で開催している『世界オペラ歌唱コンクール NEUE STIMMEN 新しい声』。韓国人テノール、イ・ミョンヒュンは、前回(2013年)よこすか芸術劇場で行われた予選オーディションを経て、男声部門で見事優勝を果たした。「12歳の時、三大テノールの韓国公演をテレビで観て感動し、オペラ歌手になることを決意した」という彼は、14歳で声楽を学んだ時からこの道一筋。現在はハンブルク音楽演劇大学に在籍しながらキャリアを積んでいる。
「勉強を始めた当初から、過去の偉大なリリック・テノールの歌唱に深いインスピレーションを受け、自分もそのように歌いたいと強く願ったものでした。テノールの声はとても繊細で、それをうまくコントロールするのは大変難しい時もあります。でも、この声を自分が授かったことを、とても嬉しく誇りに思うのです」
 現在の声質はリリコ。マスネ《ウェルテル》より、有名な〈春風よ、何故私を目覚めさせるのか?〉をドイツの本選で歌ったが、この役に望まれる繊細なロマンティシズムと情熱を持ちあわせている。
「私の大好きなアリアのひとつで、甘い旋律を最後まで維持できるかがポイントなのです。コンクール本番では音楽コーチのサポートもあって、自分でもベストの力が出せました。ただ、オペラの舞台でウェルテル役を演じるのはまだ早過ぎると思います。キャリアの初めから無理は禁物ですからね。今、得意としているのはドニゼッティ《愛の妙薬》のネモリーノやモーツァルト《魔笛》のタミーノなど。声が合っているだけでなくキャラクターも私自身のパーソナリティに近いかもしれません(笑)」
 4月には、本年の予選を前によこすか芸術劇場で開催されるガラ・コンサートに出演し、得意のレパートリーに加え、プッチーニ《ラ・ボエーム》より〈冷たい手を〉、ヴェルディ《リゴレット》より四重唱なども歌う予定だ。
「前回、横須賀で歌った時、温かく迎えてくれた聴衆の皆さんのことを今でも覚えています。あの響きの美しいホールで再び、共に予選を戦った仲間と一緒に歌えるのを楽しみにしています。今はまだハンブルクで勉強を続け、欧州の文化などを学ぶ身ですが、いつの日か人々を勇気づけたり、癒したりできるような音楽家になりたいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年4月号から)

オペラ・ガラ・コンサート
〜世界オペラ歌唱コンクール『NEUE STIMMEN 新しい声』の歌手たちを迎えて〜
4/29(水・祝)15:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999 
http://www.yokosuka-arts.or.jp