幸田浩子(ソプラノ)

「大丈夫だよ。と、やさしく肩をさすって励ましてくれる、日常の祈りのような曲を集めました」
 聴きながらとてもおだやかな気持ちになれる素敵な一枚だ。幸田浩子7枚目のアルバム『スマイル─母を想う─』には、自身の母親への想いがこもっている。幼い頃に歌ってくれた子守歌。思い出や感謝。
「もちろん母にも聴いてほしかったのですけれど、間に合いませんでした…」
 闘病中だった母親は、昨年12月の録音を待たずに亡くなった。小学校の音楽教師を務めながら、彼女とヴァイオリニストの姉・さと子、二人の音楽家を育てた母だった。
「私がいま音楽をしているのは、母のおかげです。物心がついた頃には一番楽しい大きなおもちゃがピアノでしたし、母が子守歌を歌ってくれたり、好きな曲を一緒に歌ったり。その積み重ねで今があります」
 ジャンルを超えたさまざまな名歌が並ぶ中、とりわけ「サウンド・オブ・ミュージック」には思い出がぎっしり詰まっている。
「母の大好きな曲でした。病気が見つかったあと、旅行ができるうちにと、連れていったザルツブルクのこの映画のロケ地ツアーをとても喜んでくれて。私がミュージカルの曲を歌う機会は少ないですが、たまたま去年の8月に映画音楽ばかりを演奏するコンサートがあって、この曲を歌いました。母に聴いてもらったのはそれが最後になってしまって…」
 と涙ぐみながら話してくれた。

豪華な顔ぶれのアンサンブルと共演

 編曲とピアノは作曲家の加藤昌則。東京芸大の同級生だ。
「学生時代には加藤さんの作品を歌ったこともあって、信頼しています。今回はディスカッションを重ねながら編曲していただきました。話し合って、歌ってみて、弾いてみて。私のイメージを生かしてもらった曲。意外な仕上がりになった曲。とても素敵な制作過程でした」
 そして、西江辰郎、千葉清加(ヴァイオリン)、篠﨑友美(ヴィオラ)、川上徹(チェロ)、大萩康司(ギター)と、豪華な顔ぶれのアンサンブルが共演している。
「ぜいたくなメンバーですよね。音が鳴った瞬間に、皆さんニコニコしながらお互いに音楽を作ってくださるのが分かるんです。鳥肌が立つぐらい楽しい時間でしたし、そうやって音楽を愛している方たちと触れ合うことで、こんなにも励まされるのだなあと実感しました。そのエネルギーみたいなものを、聴いてくださる方々とも共有できたらいいなと思います。出発は私のパーソナルな気持ちですが、母というテーマは普遍的ですよね。皆さんがご自分の母親を思う気持ちや、逆に母親としてわが子を思う気持ちとつながれたらなと願っています」
 タイトルの「スマイル」は、1曲目に収録されているチャップリンの同名曲から。
「涙より微笑みのほうが素敵じゃない、とやさしく励ましてくれる歌詞に、このCDを作りたいと思った理由のすべてがあります」
 心が折れた時には微笑んでごらん── そう呼びかける彼女のやさしい歌は、5月には発売記念コンサート(紀尾井ホール)でも。
「CDの収録曲をベースに、シューベルトの歌曲を数曲など、少し加えて歌います」
 そう言われてみれば、ウィーンを本拠に活躍していた彼女のシューベルトは、もっとたくさん聴きたいレパートリーだ。CDでの演奏と同様に、ピアノと弦楽四重奏(メンバーは一部異なる)のサポートを得て、やさしくインティメートな空間を醸し出してくれるに違いない。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)

幸田浩子 ソプラノリサイタル with premium quintet
スマイル─母を想う─
5/8(金) 19:00 紀尾井ホール
問:ファイブアールプレイガイド052-734-3461
http://www.billboard-cc.com

CD 『スマイル─母を想う─』
日本コロムビア 
COCQ-85257
¥2800+税
4/22(水)発売