清水和音といえば、コンチェルトに室内楽シリーズにと多忙な演奏活動を続けている印象だが、驚くことにソロ・リサイタルを行うのは東京では4年ぶり、大阪では10年ぶりなのだそう。
用意されたのは、久しぶりに清水のピアノの音にどっぷりと浸かることができる、そんな機会にぴったりのプログラムだ。
演奏会は、新しいレパートリーだというレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア」で、軽やかかつ華やかで品格のある空気とともに幕を開ける。そこに続けられるのは、全曲録音を行うなど長らく向き合い続けているベートーヴェンのピアノ・ソナタから、最後の第32番だ。60代に入りますます円熟を極める清水が、ベートーヴェンがピアノ音楽の高みに上り詰めたかのようなこのソナタを今届けようと選んだ想いを、音を通じて受け止めることができるだろう。
そして後半は、若き日から愛奏してきたレパートリーであるムソルグスキーの「展覧会の絵」。彼ならではの骨太で力強い音、クレイジーとの境界に迫る表現が生かされる作品だ。研ぎ澄まされた強靭なテクニックで、音楽がもつエネルギーや精神世界を私たちにそのまま提示してくれることだろう。
全く異なる多様な角度から、現在の清水和音の音楽性、ピアノ表現の美点、格好良さを確かめることができる、魅力的な作品が並ぶ。生身のピアニストが今は亡き作曲家たちと向き合い、真剣に遊ぶ姿をみせてくれることに期待したい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2024年10月号より)
清水和音 ピアノ・リサイタル
2024.11/10(日)14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
問:キョードーインフォメーション0570-200-888
11/23(土・祝)14:00 サントリーホール
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
https://www.promax.co.jp