サー・アントニオ・パッパーノ(ロンドン交響楽団 首席指揮者)

新コンビとなったばかりのLSOが来日!

©Mark Allan

 2002年からロンドン・コヴェントガーデンの英国ロイヤルオペラ(ROH)音楽監督を務めてきたサー・アントニオ・パッパーノ(1959年エセックス州生まれ)は2024年6月〜7月の日本ツアーを最後に退任、9月にはロンドン交響楽団(LSO)首席指揮者に就き、すぐさまLSOと初の日本ツアーに臨む。オペラ公演の合間の7月1日、東京でLSO公演への抱負を語ってもらった。

 ROHからLSOへの転身はコリン・デイヴィス(1927〜2013)以来。パッパーノも英国を代表する巨匠の域に達したと実感するが、LSOとの関係は意外に長い。

 「最初はEMIのセッション。1996年にアビーロード・スタジオでプッチーニのオペラ《つばめ》をアンジェラ・ゲオルギューらと録音しました」

 サイモン・ラトル(1955〜)がベルリン・フィル首席指揮者からLSO音楽監督へと転じた2017年時点、誰もが英国への“帰郷”ととらえ、長期政権を確信していた。

 「サイモンがブレグジット(英国のEU離脱)その他の予期せぬ事態により、23年に辞任したのは驚きでした。私の側からすれば、思いもしない幸運に恵まれたともいえます。就任1年前の23/24年シーズンから実質シェフの仕事を担って2度のヨーロッパ域内ツアーを率い、今回の日本が首席就任後初の国外公演となります」

 LSOは1904年創立当時のハンス・リヒター以来ドイツ系の指揮者の薫陶も受け、ロンドンで最も重厚なアンサンブルと音色を備える。

 「長年を費やして強力なエネルギーと個性、モーターに磨きをかけてきた名人(ヴィルトゥオーゾ)集団です。ロンドンのオケの多くは速さ(クイック)が売りですが、LSOの歴史はじっくり(スロー)。たった1人の補充でも5〜6年、時には7〜8年もかけてオーディションを繰り返し、納得のいく人事を極めるため、一人ひとりの楽員に強い存在感と意味が宿っていくのです」

 日本公演のプログラムのメインは交響曲、協奏曲がそれぞれ2曲ずつ。

 「ツアーは大量の1回券を販売するため、選曲はポピュラー志向にならざるを得ません。名曲であればあるほど聴き手にもよく知られているので、演奏者は説得力に富んだ解釈を披露する必要があり、実際のハードルは高いのです」

 サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」については、「マーラーよりも古典的ですが、旋律の色彩美にあふれ、オルガンの強烈なサウンド、ピアノ4手連弾のパートなど、たくさんの動きとドラマの洗練があります」。一方、マーラーの交響曲第1番は、「とても静かな自然界の音に始まり、真に近代的なのは最後の楽章だけです。しかし、その自然はR.シュトラウスらと同じく、マーラーという『私』のフィルターを介したもので、ゲーテの『ウェルテル』にも一脈通じる近代の自我に支配されています」

 ピアノ協奏曲のソリストは2曲ともユジャ・ワン。

 「衣装に目を奪われてはいけません。深く掘り下げられた音楽性の持ち主です。ラフマニノフの第1番にはショパンの影響があるのは明らか。ショパンの第2番のピアノはプリマドンナのようでもあり、互いに関連のある2曲を並べました」

 「もうオペラは指揮しないのですか?」と尋ねた。

 「オペラは私の人生そのもの。ROHではバリー・コスキー新演出のワーグナー《指環》のツィクルスが進行中ですし、ポンキエッリの《ラ・ジョコンダ》も日程に入っています。LSOが仏エクサン・プロヴァンス音楽祭でオペラを演奏する伝統も2027年には復活するでしょう。LSOでオペラの演奏会形式を増やしていくのは、私の夢のひとつです。ROHの日々に一旦区切りをつけ、LSOの仕事に新鮮な気持ちで取り組む——私の人生のコマが1つ、新しい場面に進んだのだと思っています」
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2024年8月号より)

サー・アントニオ・パッパーノ(指揮) ロンドン交響楽団
2024.9/25(水)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
9/26(木)、9/27(金)各日19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728
https://www.kajimotomusic.com

他公演
2024.9/24(火) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
9/29(日) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。