チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
ヴェルディ 歌劇《マクベス》オペラ演奏会形式

ヴェルディに精通するマエストロで聴く悲劇の「ドラマ」

左より:チョン・ミョンフン ©上野隆文/セバスティアン・カターナ/ヴィットリア・イェオ ©Sergio Ferri

 東京フィルハーモニー交響楽団がもっとも深い絆で結ばれている指揮者の一人が、名誉音楽監督のチョン・ミョンフンであることに議論の余地はないだろう。なかでも長年続いている人気のシリーズが、彼らの演奏会形式でのオペラだ。近年はヴェルディが多く、2022年は《ファルスタッフ》、23年は《オテロ》、そして今年はついに《マクベス》が上演される。

 《マクベス》はヴェルディが初めて取り組んだシェイクスピア原作のオペラだ。まだ若かった作曲家の、情熱がたぎるような傑作である。彼が、マクベス役を初演した歌手に国王暗殺後の場面で「声をひそめて歌う」ことを要求したり、マクベス夫人役の歌手に「耳ざわりな、くぐもった、暗い声」を望んだのは有名な話だ。ヴェルディが目指したのは美しい歌より、音楽によるドラマの表現だったのである。

 その意味でも、今回のキャストは理想的だ。マクベスとマクベス夫人に、国際的に活躍し、本作でも高い評価を得ているセバスティアン・カターナとヴィットリア・イェオが出演する。カターナは一昨年、前述のチョン・ミョンフン指揮《ファルスタッフ》で題名役を歌い、その歌役者っぷりが絶賛されたのは記憶に新しい。イェオは同じ演奏会形式で16年に《蝶々夫人》に主演し、やはり素晴らしい歌唱を聴かせている。来日歌手陣に加え、日本人キャストも充実。新国立劇場合唱団も迫力の歌で、シェイクスピアの世界を描き出してくれるだろう。
文:井内美香
(ぶらあぼ2024年8月号より)

第1004回 オーチャード定期演奏会
2024.9/15(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
第1005回 サントリー定期シリーズ
2024.9/17(火)19:00 サントリーホール
第164回 東京オペラシティ定期シリーズ
2024.9/19(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
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