ボリス・ギルトブルグ(ピアノ)

エリザベートコンクールの覇者がソロと協奏曲で魅せる

 ©Sasha Gusov
©Sasha Gusov
 2013年、世界三大コンクールの一つとして知られるエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝したボリス・ギルトブルグ。モスクワ生まれ、テル・アヴィヴ育ちの30歳は、凛々しくエネルギッシュな演奏で客席を魅了する。
「エリザベートは僕にとって一つの“試験”でした。というのも、2011年に2位になったルービンシュタインコンクールでは、『完璧さを目指すあまり自由さに欠ける』と評されたのです。そんな僕の弱点を克服しようと臨んだエリザベートでは1位のみならず聴衆賞をいただき、本当に意味のある優勝となりました」
 ソリストとしての活躍はもちろん、すでに名だたるオーケストラや指揮者との共演を重ねているが、日本でもリサイタルのほか、N響との共演や友人のピアニスト福間洸太朗とのジョイント演奏会などを行って来た。3月にはザ・シンフォニーホールで日本センチュリー交響楽団とブラームスのピアノ協奏曲第1番を演奏する。
「ブラームスの協奏曲は、人間のあらゆる感情を内包した巨大でシンフォニックな作品です。第1番は50分という大曲。人間の一生涯を描いていると言っていいでしょう。心と魂を豊かにしてくれる大好きな作品です」
 6日後のトッパンホールでのリサイタルは意欲的な選曲だ。
「グバイドゥーリナの『シャコンヌ』は、巨大な寺院を思わせる建築物のような作品。20世紀作品の中でもっとも力強く、ミステリアスで、少し怖いところもある魅力的な曲です。シューマンの『謝肉祭』は、さまざまなキャラクターや場面を、演劇的にはっきりと描いています。このような曲の場合、僕は役者のように何役もこなします。一方ラフマニノフの『楽興の時』は、演劇というよりは説話的です。より暗く、厳しい雰囲気があります。こうした曲ではあまり具体的な内容を言語化して捉えようとせず、音楽そのものに語らせることを意識します。聴き手の皆さんそれぞれに、物語を想像していただきたいです」
 締めはプロコフィエフ。戦争ソナタのCDをリリースしているギルトブルグだが、今回はソナタ第2番を披露する。
「イマジネーションを刺激する闇を湛えた作品です。鋭さ、怒り、見せかけのエレガンス、重い足取り、輝き、ユーモアに溢れている。プロコフィエフにしか書けなかった傑作ですね」
 語学を趣味とし6ヵ国語を操る。詩をヘブライ語に訳すのが楽しみの一つ。カメラ好きで、来日の際には夜の渋谷で3時間もシャッターを切り続けたことがある。
「日本の皆さんは静寂の中で音楽に集中し、最後は温かな拍手で包んで下さいます。日本での公演を心待ちにしています」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)

マックス・ポンマー(指揮) 日本センチュリー交響楽団 
第199回 定期演奏会
3/12(木)19:00 ザ・シンフォニーホール
問:センチュリー・チケットサービス06-6868-0591 
http://www.century-orchestra.jp

リサイタル
3/18(水)19:00 トッパンホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
http://www.pacific-concert.co.jp