オール無伴奏に挑む期待の新星
近年、才能豊かな若手を輩出している日本ヴァイオリン界に、またも期待の新星が現れた。2014年7月にドイツの国際バッハ・コンクールで日本人初優勝を飾った岡本誠司だ。現在、東京芸大に在学中の20歳だが、インタビューでの語り口は実に明晰で温厚。コンクールでもその人柄を反映した演奏が高い評価を得たのだろう。その岡本がHakuju Hallで開催されるスーパー・リクライニング・コンサートに出演する。プログラムは、コンクールの本選でも演奏したバッハのシャコンヌを軸に、ビーバー、テレマン、パガニーニ、エルンスト、イザイ、プロコフィエフという7つの無伴奏作品。
「オール・バッハも考えたのですが、無伴奏の歴史のダイナミズムを感じてもらえるような公演もいいなと思いまして。ヴァイオリン1挺だけで弾き通すのは、音響のいいホールでないと厳しい。残響が温かくクリアなHakuju Hallだからこそ実現した企画です」
今回で103回目を迎えるリクライニング・コンサートだが、オール無伴奏というのは当公演が初めてだという。
「大変光栄ですし、やりがいを感じています。ビーバーのパッサカリアとバッハのシャコンヌは同じ形式でも中身はまったく違いますし、イザイやプロコフィエフのような近現代作品では形式や奏法自体が大きく変わってくる。1曲でもいいから、皆さんそれぞれのお気に入りが見つかると嬉しいですね」
3歳でヴァイオリンを始めた岡本は、東京芸大附属高時代から澤和樹に師事。近年はチェリストの鈴木秀美の下でピリオド奏法も学んでいるが、バッハ・コンクールではモダン楽器を選択したそうだ。
「このコンクールは、楽器も奏法も選択が自由。参加者も審査員もバラエティ豊かで面白いコンクールでした。『大好きなバッハを、ピリオド奏法を考慮しながらモダン楽器で弾いてみたい』という、ここ数年ずっとやってみたかったことが実現して幸せでした」
岡本は、2010年のバッハ・コンクール第2位で、同じく鈴木秀美と繋がりがある佐藤俊介を大変尊敬しているという。
「モダン楽器とピリオド楽器を状況に応じて弾き分けながら、ソロ、室内楽、協奏曲と幅広く活躍する俊介さんは、僕の理想です」
今後の展望を、「バッハと同じくらいブラームス作品が好き。作品が作られた時代や背景を深く頭で考えて心で感じとりながらも、それにとらわれすぎない柔軟な活動をしていきたいです」と語る彼が、今回のパガニーニやイザイなどをどう弾くかも実に楽しみだ。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)
第103回 スーパー・リクライニング・コンサート
2015.3/6(金)15:00/19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp