【CD】ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集(I)/葵トリオ

 もう若手と紹介する必要のない、最高のトリオのひとつといえる存在となった葵トリオ。いよいよ取り組んだベートーヴェンも、すでに盤石といって差し支えないだろう。ベートーヴェン初期と中期それぞれの特徴的で充実した作品群に臨み、力みはないが力感は十分、冷静だが闊達な演奏で、各曲の特色を明らかにしていく。弦のしなやかな表現と歌心は期待通りだし、ピアノの見事さも特筆したい。どんなに細かいフレーズでも粒だった音が実に美しく、かつ豊かに響く。穏やかな場面も、他の2人ばかりか、聴く人をも包み込むかのような心地よさ。全集の完成が楽しみだ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年7月号より)

【information】
CD『ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集(I)/葵トリオ』

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第2番、同第4番「街の歌」、同第6番

葵トリオ
【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】

ナミ・レコード
WWCC-8011 ¥3300(税込)