鈴木秀美(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

古楽の泰斗が誘う熱狂に満ちた「ザ・グレート」

左:鈴木秀美
右:小山実稚恵 ©Hideki Otsuka

 ウィーンの大作曲家たちの王道名作プログラムを、イメージを一新させるような名演奏で味わい直す。6月末、土曜マチネの東京シティ・フィル定期は、そんな時間を過ごせるだろう。

 指揮は鈴木秀美。古楽の巨匠としての知見を踏まえた緻密な解釈と、それを覆すことも辞さないほどのパッション。歴史的奏法のアイディアで独特の音色を作りつつ、モダン楽器ならではのパワーや表現の幅も活かして、心を揺さぶる演奏を実現している。特に彼の指揮で聴く古典派・初期ロマン派作品は、毎回のように感銘深い演奏が実現していて、聴き逃がせない。

 今回は、ニ短調の序奏とニ長調の主部が強い対比を作る、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》序曲で開幕。続くベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番は、この作曲家独特のハ短調の重みに覆われた傑作で、ホ長調の緩徐楽章、晴朗なハ長調のコーダの効果も印象的。ソリストは小山実稚恵。盤石の存在感を示す名匠だが、そこに安住することなく表現を深め続ける小山が、鈴木との共演で、“盤石”に留まらぬ清新な演奏を聴かせるに違いない。

 そしてシューベルトの“大ハ長調”、交響曲第8番「グレート」。昨年も彼の指揮で本作を聴けたが、説得力ある解釈、管楽器を軸とする音色や表情の愉悦感、痛快なまでのエネルギーで、目の覚めるような快演だった。精妙な転調を経て、最後のハ音連打に到達するまで、好調の東京シティ・フィルとともに鈴木秀美が作り上げる“楽興のとき”。存分に満喫したい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年5月号より)

第371回 定期演奏会 
2024.6/29(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
https://www.cityphil.jp