フランス音楽の持つ日本的な感性に近い雰囲気に惹かれます
東京大学法学部出身という異色の経歴を持つソプラノの川越塔子が、フランス歌曲とアリアを歌った初CD『パリの薫り〜コンセール・アペリティフ』をリリースする。
「フランス音楽との出会いは、留学先のイタリアの先生の勧めでした。イタリア・オペラを勉強したくて留学したのに、『あなたには向かない』と言われているのではないかと、結構ショックでした(笑)。フランスものはほとんど歌ったことがなかったのですけれど、いざ歌ってみると『やられた! なに、これ!?』という衝撃。フランス音楽の持つ湿り気を帯びた憂いや色っぽさに日本的な感性に近い雰囲気を感じて、惹かれていったのです。最初に勉強したのが、このCDでも歌っているギュスターヴ・シャルパンティエの《ルイーズ》でした」
サティやグノーの歌曲、「どうしても入れたかった」と語るプーランク《ティレジアスの乳房》など、「私らしいオリジナリティを出したかった」選曲の中に、中田喜直の《さくら横ちょう》と《霧と話した》が。フランス音楽集なのになぜ? と思ったら、なんとフランス語で歌っていた。
「実は最初はフランス・アルバムと決めていたわけではないんです。デビュー以来日本のオペラも歌い続けてきたので、日本人作品も入れたくて。結果としてフランスもの中心になったのですが、日本人作品を並べてみても素敵だなと。ちょっとフランス歌曲のように聴こえませんか? 原曲の歌詞をそのままフランス語に移してあるのですが、歌っている内容まで変わっている気がして、日本語で歌うのとはまったく別ものという感覚です」
東大卒業の経歴については、そればかり注目されるのが嫌でプロフィールから消していた時期もあったそうだが、「こうして興味を持っていただけるので、今はよかったと思っています」。ちなみに、“ガリ勉”したら成績がぐんぐん上がり、東大文科一類の合格水準に達したので、受けなければ損だと思って受験したのだそう。そこが法律を勉強する学部とはよく知らなかったのだとか。
いま歌いたい役は?と尋ねると、「マスネの《マノン》」と即答。
「《マノン》には、ふくよかで陰影に富んでいて官能的という、私がイメージするフランス・オペラの要素が一番ある気がします」
2月14日にはCD発売記念リサイタルで、収録曲を中心とした曲を披露。フランス音楽への尽きない思いをCDの形であらためて告白した川越塔子の新しい一歩が始まる。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)
川越塔子 CD発売記念ソプラノリサイタル
2/14(土)14:00 王子ホール
問:日本オペラ振興会チケットセンター044-959-5067
CD『パリの薫り〜コンセール・アペリティフ』
ソニー・ミュージックダイレクト
MECO-1026(SACDハイブリッド盤)
¥3000+税