ローランドのデジタル・グランドピアノ「V-Piano Grand」が6月に発売され、横山幸雄の演奏による、そのデビューコンサートが東京と大阪で開催された。同様の演奏会は、世界各地で活躍するピアニストにより、合計21ヵ国でおこなわれている。
横山曰く「耳で聴いて微妙なコントロールができ、それが思ったように表現される」と認める豊かな表現力を実現したのは、ローランドの最先端技術を用いた、新しい発想の音源だ。この音源は従来のデジタルピアノのようにアコースティックピアノからの音のサンプリングを使用しない。ハンマー、響版、弦、それぞれの発音原理や相互干渉までも忠実にデジタルで再現し、音を一から再構築させるシステムがとられている。設定を変えればハンマーの固さや弦を好みの状態に“調律”できる。また、弦の素材やボディの全長をアコースティックピアノでは実現しえない設定とすれば、新しい楽器としての可能性が生まれる。演奏家の表現への欲求をかき立てる楽器だ。さらに新設計のサウンド・システムを搭載し、グランドピアノのフォルムから奥行きと広がりのある豊かな響きを感じられる。演奏会で横山は、前半をノーマルなピアノの音でニュアンス豊かに、後半では、リストのピアノ・ソナタをすべての弦をシルバーの巻線設定に変更して、華やかな音で演奏した。
創業40周年を迎えるローランドがこうして常に進化した楽器を世に送り出せるのは、「造り手の情熱」によると同社の田中英一社長。
「音楽家の声を聞き、期待に応えられる楽器を作りたいと思うことが、常に挑戦を続ける私たちエンジニアの活力です。電子ならではの良さを活かし、表現力を追究して、真に良い楽器だと言っていただけるようさらに努力をしていきたいです」
横山は、「表現の可能性を懸命に追究して生まれた楽器は、触れていて面白いし刺激がある。アコースティックと比べてどうというのではなく、楽器として良いと思えることが大切です。どの楽器を弾いているかすら忘れて入り込める瞬間があれば、聴衆にとっても音楽にとっても幸せな時間です」と語る。
これまでのデジタルピアノの枠を大きく超えた表現力。クラシックピアニストの要求に応える、生きたデジタルピアノが誕生した。
取材・文:高坂はる香