サッシャ・ゲッツェル(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

胸に染み渡る巨匠最晩年の至高の境地


 軽やかなニューイヤー・コンサートもいいが、1月も後半になれば重厚な音楽も聴きたい…。そんなファンにお薦めなのが、神奈川フィルの1月定期「みなとみらいシリーズ」。本公演では後期ロマン派の大家、R.シュトラウスとブルックナーの最晩年の深遠な世界を堪能できる。
 指揮は、ウィーン生まれのサッシャ・ゲッツェル。ウィーン・フィルのヴァイオリン奏者から指揮者に転身した彼は、クオピオ響ほか複数のポストをもち、バーミンガム市響やウィーン国立歌劇場などに客演している。2013年より神奈川フィルの首席客演指揮者に就任。本場の香り溢れる瀟洒な音楽を聴かせているから、今回の独襖ものへの期待も大きい。
 幕開けは、映画音楽で知られるコルンゴルトが書いた、J.シュトラウスへのオマージュ「シュトラウシアーナ」。捻りを加えて新年を祝う粋なセンスが光る。次はR.シュトラウスの「4つの最後の歌」。華麗な交響詩やオペラで名高い作曲者が、死の直前に残した同曲は、人生への別れを清澄なトーンで描いた美品。巨匠達観の境地が、万人の胸に染み渡る。ウィーンで学び、当地の歌劇場やボン・ベートーヴェン音楽祭の「第九」などに出演しているソプラノ、チーデム・ソヤルスランの歌声も要注目だ。そして、未完ながら至高の完成度をもったブルックナー最後の交響曲第9番。重厚さも激しさも彼岸へと浄化されるこの音楽を、ウィーン出身のゲッツェルが響きの柔らかな神奈川フィルと奏でれば、ピュアな感動が衒いなくもたらされるに違いない。
 稀代の名作で新年を飾る意気込みや良し。ここは聴く側も深みを味わい尽くそう。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

第305回 定期演奏会 みなとみらいシリーズ
2015.1/24(土)14:00 横浜みなとみらいホール
問:神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 
http://www.kanaphil.or.jp