上原彩子(ピアノ)

ピアニスティックで華麗な「くるみ割り人形」の誕生

 クリスマス・イヴの12月24日、上原彩子からの贈り物のようなCDがリリースされる。チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」ピアノ独奏版だ。注目したいのは、上原自身によるピアノ用アレンジである。バレエ前半の〈くるみ割り人形とネズミの王様の戦い〉を含む7曲を選曲してアレンジし、ピアノ版の名作として知られるプレトニョフ版の7曲と組み合わせ、計14曲の組曲として構成した。
「〈クララとくるみ割り人形〉や〈スペインの踊り〉などはプレトニョフ版にも管弦楽の組曲版にも含まれていないため、バレエを観ない方にはあまり知られていません。しかし非常にシンフォニックで前衛的な音の使い方も見られ、ピアノで弾いても鮮やかです。多くの方に聴いてもらいたいと思いアレンジしました。有名な〈花のワルツ〉はバレエ中もっとも華やかな曲ではありますが、繰り返しが多いので、ピアノ版では音域を広く使い変化に富んだアレンジにしました。ピアニスティックな曲想に仕上がったと思います」
 まさにゴージャスで華麗な彩りに満ちたピアノ版の誕生だ。プレトニョフ版は音の数が多くテクニカルな編曲だが、「組み合わせても違和感なく統一感が出るように」工夫を凝らした。
「チャイコフスキーがもともとピアノのために書いた作品は、割とシンプルな書法で書かれています。しかし彼の管弦楽のスコアに向き合ってみると、あのドラマティックな響きは非常に精密に作り上げられていることがわかりました。ピアノ曲だけに向き合っていたのでは知り得なかったチャイコフスキーと出会えたように思います」
 上原は原曲のバレエ音楽を隅々まで愛し、熟知している。8歳になる長女が幼い頃からバレエを習い、彼女のお気に入りの「くるみ割り人形」のDVDを何度も一緒に鑑賞してきた。
「子どもたちの心も強く惹き付ける作品ですね。来年は子ども向けにピアノ、絵、そして語りを組み合わせたコンサートも企画しています」
 CDではさらに、同じ年代にチャイコフスキーが作曲した「18の小品 op.72」から〈子守歌〉を含む4曲も収録。
「華やかなバレエ音楽とは対照的に、しっとりとした大人の雰囲気の作品です。シンプルな作風ですが、この年齢になって理解が深まったと感じます。こちらもあまり知られていない作品なので、ぜひ広く聴いていただきたいです」
 1月24日には、この「くるみ割り人形」と「最近はまっている」というモーツァルトのソナタを組み合わせたリサイタルを行うのでこちらも楽しみだ。
 チャイコフスキー国際コンクール優勝から12年。上原とチャイコフスキーの対話はさらに深みを増していく。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

2015.1/24(土)13:30 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp
他公演 
2015.1/17(土) 伊丹アイフォニックホール 問:072-780-2110
2015.3/14(土) 鎌倉芸術館 問:0120-1192-40

CD『上原彩子のくるみ割り人形』
キングレコード
KICC-1164
¥3000+税