堀米ゆず子(ヴァイオリン)

円熟の名奏者が名品に託す深き思い

 ©中村 治
©中村 治

 日本屈指の実力派ヴァイオリニスト・堀米ゆず子が、1月10日、彩の国さいたま芸術劇場のシリーズ『次代へ伝えたい名曲』に出演する。彼女が今回選んだのは、モーツァルト、ドビュッシー、三善晃、フランクの作品。この構成は「三善晃から始まった」という。
「公演の日は2013年に亡くなられた三善先生の誕生日。まずは追悼の意味もあって『ヴァイオリンのための鏡』を伝えたいと考えました。そして、先生が影響を受けたフランス系の音楽で、私が住むベルギー出身でもあるフランクのソナタで締めくくり、新春に相応しいモーツァルトのソナタK.454と、『鏡』への流れからドビュッシーのソナタを前半に置きました。これらは『伝えたい』というよりも『伝わる』曲だと思います」
 三善晃の無伴奏曲「鏡」への想いは強い。
「桐朋時代の7年間に、先生から密接な指導を受け、学長として助けても頂きました。『鏡』は、その時期の1981年=最盛期の作。先生とは卒業後も親交を深めましたし、お別れの会でもこれを弾きました。20世紀の無伴奏曲の中で技術的に最も難しいのですが、とても緻密で、バッハの対位法を思わせる面もあります。『鏡』とは“自者と他者”“バッハと自分”などの意味。曲全体が大きくクレッシェンドしながら、三善先生らしい激しさ、衝撃、驚きや静謐な部分が現れる、変化に富んだ作品です」
 また今回は、「美しさと陰影。構成力を持ちつつ、あくまでピュアな音楽」がコンセプトでもある。
「モーツァルトのK.454は、第2楽章をはじめ、後期特有の陰影がありますし、ヴァイオリン・ソナタとしては稀にみる大曲で、構成感がしっかりしています。ドビュッシーのソナタは、各楽章がひとつの小品ともいえる面白さと陰影を持ちながら、構成力のある傑作。フランクのソナタも、ドイツの構成感とフランスの和声感を併せ持ち、レチタティーヴォなど陰影が多く含まれています」
 加えて「ベルギーはフランスとは気質が全く違うし、フランクにはベルギーらしい重い和声感もある」というから、そのソナタでは、約30年同地に暮らす堀米ならではの表現が期待される。
 またこれらはピアノの比重が高い。その点、今回共演する津田裕也は「5年ほど前から再三共演している頼もしい仲間。音楽作りが自然で、何でも弾ける」ので、実に心強い。
 彼女は、10年ほどブリュッセル王立音楽院で教授を務め、「ヴァイオリンのパートを弾くのは氷山の一角に過ぎない。音楽は少なくともピアノ譜から読み、作曲家の僕(しもべ)として深く感じ、喜びを見出すよう」指導しているとのこと。今回は、そんな堀米の“伝えたい音楽”を、ぜひ肌で感じたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

次代へ伝えたい名曲 第3回 堀米ゆず子 ヴァイオリン・リサイタル
2015.1/10(土)14:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
問:彩の国さいたま芸術劇場0570-064-939 
http://www.saf.or.jp/arthall