岡 昭宏(バリトン)

藤原歌劇団創立90周年の幕開け公演で魅せる新境地

 バリトン岡昭宏の個性には、「青年」の一語が何より相応しい。藤原歌劇団のスターとして活躍目覚ましく、モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》の士官グリエルモや三木稔《源氏物語》の光源氏で絶賛されたが、その彼が、今度はフランス・オペラに新たな一歩を踏み出すことに。「オペラ史上最もヒットした作品」の一つ、グノー《ファウスト》でヒロインの兄ヴァランタンを演じるという(演出:ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ、指揮:阿部加奈子)。

 「ヴァランタンの第2幕のアリア〈門出を前に〉は、バリトンなら必ず勉強する曲です。でも、今回、全曲スコアを開いてみたら、最初は妹思いの兄なのに第4幕では『お前なんか呪ってやる!』といって死ぬからびっくりですよ(笑)。コンクール等で何度も歌ってきた〈門出を前に〉ですが、いまや僕の中で印象が全然違ってきています。稽古が楽しみです」

 ヴァランタンの妹マルグリートは未婚のままファウスト博士の子を身籠り、ヴァランタンはファウストと決闘に。しかし、悪魔メフィストフェレスのせいで致命傷を負う。出番は限られるが、登場のインパクトがそれは大きい役なのだ。

 「イタリアでの恩師アルベルト・クピード先生はフランスものもよく歌われた方でして、『曖昧母音もあるけれど、ちゃんとした一つの音として、声帯を使ってしっかりと発音すれば大丈夫だよ』と教わりました。フランスものには、バリトンの華やかな役が多いですし、これからも積極的に歌ってゆきたいですね」

 そうやってはきはきと語る岡の声音は、まさしく凛々しく、力強いもの。引き締まった体躯から圧倒的な勢いで放たれる彼の歌声は、多くのオペラ・ファンを一発で魅了するだろう。

 「ありがとうございます。実は太りたくても太れない(笑)。暇があればスポーツをやっています。香川県の出身ですが、祖父が甲子園に出たことがあるので、小学校の頃は星飛雄馬のような日々を過ごしました(笑)。それからサッカーを始め、いまは水泳が中心です。日常生活では睡眠をしっかり確保できるよう注意していまして、6時間は熟睡したいです。お酒の量も睡眠第一で考えます」

 国立音大で小林一男に師事した岡。もとはテノールであったのが大学3年でバリトンに転向。結果、師のアドバイスを見事に活かして今日に至っている。

 「《ファウスト》は東京と名古屋で歌わせていただきます。名古屋で歌うのはおそらく初めてなので、まずは皆さまに僕の顔と名前を憶えていただければ。名作オペラですが、上演は貴重ですので、是非足を運んでいただき、お楽しみください!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年1月号より)

藤原歌劇団公演 グノー作曲《ファウスト》ニュープロダクション
(全5幕/原語(フランス語)上演・字幕付)

2024.1/27(土)、1/28(日)各日14:00 東京文化会館
2/3(土)14:00 名古屋/Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874 
https://www.jof.or.jp
※配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。