シャルル・デュトワ(指揮) NHK交響楽団 《ペレアスとメリザンド》演奏会形式

実力派ソリストたちがデュトワの元に集結

 歌劇《ペレアスとメリザンド》には独自の「2大特徴」がある。一つはテーマが「寂しさ」であること。オペラと言えば刺したり呪ったりのイメージがある中で、この傑作を支配するのは、家族にすら理解されない「心の寂寥感」なのだ。
 悲劇は、アルモンド王国に迷い込んだ謎の女メリザンドが、夫で王子の中年男ゴローには馴染めないのに、彼の異父弟ペレアスにはあっさり心を許すところから始まる。二人の無邪気な絆に苦しむゴロー。猜疑心に囚われた彼は、やがて弟を刺し殺してしまい…。そう、実は本作も愛憎の物語に他ならない。でも、フランス語の繊細な抑揚と印象派ドビュッシーの柔和な音作りが、ドラマの凄惨さを深く覆い、舞台に哀感のみを漂わせる。出産したメリザンドが亡くなる終幕でも、王子たちの祖父アルケル王が「今度はこの赤子の生きる番だ」と呟くが、恐らく作曲者が最も伝えたかったのは、それに連なる10小節の後奏の響きだろう。透明感ある長調のハーモニーが、全ての苦しみを浄化して幕を下ろすからである。
 そして、もう一つの特徴は「プロ中のプロが取り上げるオペラ」であること。名歌手ほど《ペレアス》への出演歴を誇るし、シャルル・デュトワの録音(1999年)も感情の襞を管弦楽の淡い響きで包み込む名盤として評価が高い。今回はこのマエストロがNHK交響楽団をどのように触発するのだろうか。ちなみに、N響が《ペレアス》を取り上げるのは、1986年に若杉弘が指揮して以来2回目となる。母親役のナタリー・シュトゥッツマンを始めステファーヌ・デグー(ペレアス)、ヴァンサン・ル・テクシエ(ゴロー)、カレン・ヴルチ(メリザンド)ら、真の実力派ソリストが集うステージだけに聴き逃せない!
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

第1796回 定期公演Aプログラム
12/5(金)18:00、12/7(日)15:00 NHKホール
問:N響ガイド03-3465-1780 
http://www.nhkso.or.jp