絶頂期のパリ・デビュー公演、“完全版”初公開!
歌の女神、マリア・カラス(1923-77)は数々の名録音を遺したが、映像はごく少数しか観ることが出来ない。しかも、その殆どが後半生に撮られたもの。最盛期の1950年代に大歌劇場で演じた“オペラの本編”となると、思い浮かぶのはただ一つ——『マリア・カラス伝説のオペラ座ライヴ』に観る《トスカ》第2幕である。
18世紀末のローマで警視総監に狙われた歌姫トスカ。恋人の命と引き換えに「身体を差し出せ」と強要されるが、ナイフで発作的に相手を刺し殺す…。この映像に観るカラスは、プッチーニのスリリングな音楽を完全に御して、誰よりも鋭く、激しく、哀れである。名アリア〈歌に生き、恋に生き〉の絶唱は勿論だが、短い一節でも心の揺れを色濃く伝え、身体をよじる一瞬ですらも美しい。
来る11月に、この名演の“完全版”がスクリーンで公開される。それは、オペラの世界に浸りたい人にはまたとない機会。大空間で観てこそ判る迫力というものもあるからだ。映像の前半は同日収録のガラコンサートから。アリア1曲でもカラスの精妙な歌いぶりは群を抜き、客席の模様やステージ袖の様子も窺えるので、“社交界の縮図”を覗き見するような面白さもある。特にベッリーニの〈清らかな女神よ〉で合唱団が先走った途端、腕でエレガントに制してから団員たちを一瞥するカラスの姿は「ドラマを超えるリアリズム」の極致。身に着けたネックレスの燦然たる輝き—本物の証—と共に、忘れ得ぬ瞬間となるだろう。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)
11/19(水)11:00 14:00 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
12/18(木)11:00 14:00 よみうり大手町ホール
問:樂画会チケットデスク03-3498-2508
http://gakugakai.com