チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
歌劇《オテロ》オペラ演奏会形式

ヴェルディの傑作オペラを万全の布陣で聴く好機

 「歴史に遺る偉業」—— それは前代未聞の業績を打ち立てること。その好例になりそうなのが、7月の東京フィルハーモニー交響楽団によるヴェルディ《オテロ》演奏会形式上演である。指揮者チョン・ミョンフンの剛毅さがオーケストラの覇気を高めるに違いなく、主演者もテノールのグレゴリー・クンデとは! 見逃すことなど出来るだろうか!

 クンデはかつて、ベッリーニのオペラでハイFを朗々と響かせ、ドリーブの《ラクメ》では抒情性の塊と激賞されたが、その後、体躯を少し大柄にしてロッシーニの《オテロ》に主演。烈しいコロラトゥーラと逞しい声音で大勝利した。ところが、彼はその後、ヴェルディの英雄的なオペラにも進出し、なかでも《オテロ》で圧倒的な成功を手に。もう70代目前なのに声も意欲も衰えず、前人未踏の道を歩んでいる。

 クンデは若き日に大病を患った。それゆえ、健康にはひときわ気を付け、感情は舞台で全部吐き出したいよう。朗らかな素顔とは裏腹に、ステージ上では錯乱する英雄の悲愴感を全身で表出する。今回は、そのクンデを招くと決めたマエストロの慧眼ぶりも大したもの。悪漢イアーゴには脂の乗り切ったバリトン、ダリボール・イェニスを起用し、若妻デズデーモナ役には名花、小林厚子を抜擢。他のキャストも日本が誇る名歌手たちで贅沢に纏めている。こんなに「穴のない配役」を目にするのも滅多にない。あとは、新国立劇場合唱団も含め、全員が万全の体調で挑んでくれさえすれば、「歴史に遺る公演」が体感できるだろう。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2023年7月号より)

第988回 オーチャード定期演奏会
2023.7/23(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
第156回 東京オペラシティ定期シリーズ
7/27(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第989回 サントリー定期シリーズ
7/31(月)19:00 サントリーホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
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