ピアニストとして地道な演奏活動を続け、初の一般販売のアルバムを制作した安藤久仁子。彼女の奏でる「ゴルトベルク変奏曲」は、語るようなアリアですぐに引き込まれる。各変奏から愛らしさ(第2変奏)、舞曲的な様相(第7変奏)、弦楽合奏のような豊かさ(第15変奏)、雅びやかに整理された重音の妙(第28変奏)、穏やかな説得力(第30変奏)等を鮮やかに引き出す。後半はリピートを省略することで流れよくまとめた。音楽的な句読点を絶妙な間合いで付け、強弱の丁寧なコントラストも素晴らしく、晴朗かつ誠実で充実した音楽だ。程よくホール残響を生かした録音も気持ちがいい。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2023年7月号より)