東京藝術大学大学院の後、ドイツで10年以上にわたり研鑽を積んだ古川貴子によるシューベルト・アルバム。「12の高雅なワルツ」に始まる前半の舞曲は、明快なタッチとみずみずしい音で奏でられ、シューベルティアーデの集いでシューベルトが仲間のためにピアノを弾いていた朗らかさを思わせる。一方のピアノ・ソナタ第18番 「幻想」は、優しい音の中に内面を見つめるような重さも備え、メヌエットの第3楽章も前半の舞曲とは別の声色で歌われる。しっかり芯がありながらやわらかさを纏った音が心地良い。舞曲とソナタで、シューベルトの魅力に複数の方向から光を当てる。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2023年7月号より)
【information】
CD『シューベルト:ピアノ作品集/古川貴子』
シューベルト:12の高雅なワルツ、2つのスケルツォ、12のドイツ舞曲(12のレントラー)、ピアノ・ソナタ第18番「幻想」
古川貴子(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-9242 ¥3300(税込)