チョ・ソンジン(ピアノ)

コンクール覇者が披露する至高のコンチェルト

(c)Christoph Köstlin / Deutsche Grammophon

 2015年のショパンコンクール優勝をきっかけに、ソリストとして数々の著名オーケストラから招かれ、その好機を確実にものにしてスターピアニストの仲間入りを果たしたチョ・ソンジン。ショパンに限定せずレパートリーを広げてきた彼だが、21年には久しぶりにピアノ協奏曲第2番を録音。端正な表現はそのままに、より自由になった一面を見せてくれた。

 今回は、山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団の来日公演にソリストとして登場。その2番の協奏曲を演奏する。

「ショパンの協奏曲は2曲とも、演奏経験を重ねるにつれてますます緊張するようになった作品です。例えばベートーヴェンの協奏曲は、5回くらい経験すると心地よくなってきますが、ショパンは不思議とそうはならない。本番前はなぜか不安になります」

 彼が大好きな作曲家として挙げるシューベルトのソナタにも、似た感覚があるそうだ。

「ある種のデリケートさを持つ作品にそう感じるようです。でもそれはネガティブなものではなく、もっと準備ができるのではという感情ですね」

 さまざまなオーケストラとショパンを演奏してきた中で、その緊張を指揮者からも感じることが多いという。

「一見シンプルそうだけれど、タイミングについて指揮者としっかり話し合っておかないとうまくいきません。おそらくショパン特有のルバートが原因だと思います。2番のほうが特に難しいですね。でも同時にこの曲は本当に美しい。2楽章は、バスーンとのデュオになる部分をはじめ、心に触れるものがあります。作曲上もおもしろいところが多く、メロディはまるで天から降ってきたかのよう。どうしたら20歳であんな音楽を書けるのかと感じずにいられません」

 ところで彼とこの曲の出会いは、どのようなものだったのだろうか?

「聴いたのは11歳の頃、2005年のショパンコンクールの録音だったと思います。3位になったイム・ドンヒョクさんが選んでいましたから。
 初めての演奏経験は、2017年ブルガリアです。ベルリンから向かったのですが、2つある空港のうち僕は間違ったほうに行ってしまい、飛行機に乗り遅れました。なんとかコンサート当日に到着できましたが、リハーサル時間が足りず、自分の演奏に全く満足できなかった……それが初めての思い出です(笑)」

 指揮者との打ち合わせの大切さを主張するのは、そんな過去があったからなのかと納得するエピソードだが、そもそも、彼はどのように名だたる指揮者たちとコミュニケーションをとっているのだろう。

「僕はシャイだから、人に何かを要求するのは苦手です。でももし演奏上同意できないことがあれば、協力してほしいとお願いするようがんばっています(笑)。前は何も言えなかったから、これでも進歩しました!」

 今回共演する山田和樹に対しては、不安はなさそうだ。

「和樹さんとはまだお会いしたことがありませんが、信頼できる音楽仲間がみんな絶賛し、共演したらいいのにと言われ続けていたくらいなので、やっと実現して嬉しいんです。そしてバーミンガム市交響楽団は、重すぎたり太すぎたりしない、とてもショパンに合う音を持つオーケストラです。絶対にすばらしい組み合わせになると思います」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2023年6月号より)

山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団
2023.6/25(日)14:00 横浜みなとみらいホール★
6/29(木)19:00 サントリーホール ◎
6/30(金)19:00 サントリーホール ★
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

他公演
2023.6/23(金)熊本県立劇場 コンサートホール ★
6/24(土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール ★
6/27(火)石川県立音楽堂 コンサートホール ★
6/28(水)文京シビックホール ◎
7/1(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール ◎
(◎=チョ・ソンジン ★=樫本大進)