Music Program TOKYO シャイニング・シリーズ Vol.12 北村朋幹 ピアノ・リサイタル

真実や自分自身と向き合うための「夜の音楽」

(c)TAKA MAYUMI

 森に出でて、夢うつつ——。たしかに思えることと、捉え難いものが、混ざり合うようにある。いつか来たはずの道がまた新しく輝く。暗闇のなかで、光を感じつつ、一歩一歩を確かめる道行き。つよく求めればこそ、ひらかれてくるものがある。そうして、ときに音楽は微笑む。

 北村朋幹のピアノ・リサイタルでは、多彩な曲が互いに呼び交わし、それぞれのありようを照らし出していく。プログラムを旅することは、さまざまな時間と思考、理念と心情を編み合わせることだ。作品はかつて書かれたようにあり、しかしまだ生まれてはいない。ピアノがあり、弾き手があり、聴き手がある。だが、ともに響き出すのは、出会いのいま、このときだ。

 シューマンの後期作「森の情景」と最晩年の絶景「暁の歌」が環を結び、シンメトリーの中心ではバルトーク1926年の「戸外にて」が奏でられる。「夜の音楽」が満ちる。ホリガーが1960年代にまとめた「エリス」もトラークルの詩と歩む3つの夜の曲。ノーノが1976年にピアノとテープのために作曲した「…..苦悩に満ちながらも晴朗な波…」が、何処からか美しく寄せてくる。

 19世紀半ばのドイツ・ロマン主義から、2つの世界大戦後、20世紀後半の思索や詩作を、深く大きな夜が浸す。歳月の隔たりも、音楽と言葉の境も定かではない。北村朋幹のピアノが、そのあわいに触れる。個々の芸術家の孤独な創造が自在に呼び交わす。鳴り響く時間のなかで、作品は固有の意味を見定め、その意味を解き放つ。そして、昼は夜に、あるいは、夜は昼に——。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2023年2月号より)

2023.2/25(土)15:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 
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