開始5秒で慄然とさせられ、独特な表現と美に圧倒され続けるヤナーチェク。唯一無二の尋常ならざる世界が確立するバルトーク。東欧の2曲におけるユニークさと説得力の両立は他の追随を許さない。ブラームスもすべての音が生き物のようであり、美しいピアノと熱いヴァイオリンの絡みはやはり圧巻。全曲が未体験の表現で、特にサイのピアノの響きには何度も陶然とさせられた。なにより価値観を共有した奏者同士の喜びに、聴き手も巻き込まれる。「鬼才」と呼ばれるコパチンスカヤとサイだが、楽曲と演奏の核心を鷲掴みにしてしまう彼らこそ「王道の芸術家」なのかもしれない。
文:林昌英
(ぶらあぼ2023年2月号より)
【information】
CD『ヤナーチェク、ブラームス、バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ集/パトリツィア・コパチンスカヤ、ファジル・サイ』
ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番/バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番
パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
ファジル・サイ(ピアノ)
ALPHA/ナクソス・ジャパン
NYCX-10366 ¥3300(税込)