工藤重典(フルート)

18世紀フルート黄金期の傑作を実力派の若手とともに

(c)Makoto Kamiya

 日本を代表するフルート奏者の工藤重典がプロデュースと独奏、指揮を兼ねる「東京チェンバー・ソロイスツ」の第1回演奏会(Vol.1)を2月14日、東京・四谷の紀尾井ホールで開く。

 工藤がアンサンブル旗揚げの動機を語る。

 「フルートが目覚ましく発達した18世紀から19世紀にかけてメルカダンテやチマローザ、シュターミッツなど、フルート協奏曲の傑作が数多く書かれました。19世紀のロマン派はフルートに関心がなかったようで、次の傑作登場は20世紀です。ピリオド(作曲当時の)楽器が台頭した時期、フルートが活躍するJ.S.バッハの『管弦楽組曲第2番』なども含め、私たちモダン(現代)楽器の奏者が18世紀の作品を吹く機会は激減しました。両者の融合も進んだ今、若い優秀なソリスト、森下幸路さんがコンサートマスターを務める室内合奏団とともに、私の恩師であるジャン=ピエール・ランパル先生はじめ、巨匠たちの時代に愛されたフルート協奏曲の数々を改めて聴いていただきたいと思い、プロデュースを手がけました」

 工藤以外のフルート独奏者は第10回神戸国際フルートコンクール第3位の石井希衣、第88回日本音楽コンクール第1位の瀧本実里。「いま最も輝いている若手をそろえました。コンクールが数多く存在する中、真に実力のある若手を推すのは、指導や審査に携わっている私たち先輩世代の務めでもあります」。ヴィヴァルディ「フルートとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調」は工藤と森下、チマローザ「2本のフルートのための協奏曲」は石井と瀧本、モーツァルト「フルート協奏曲第1番」は工藤の吹き振りだ。冒頭のパッヘルベル「カノン」は「ジャン=フランソワ・パイヤール校訂版の楽譜をようやく手に入れ、パイヤール先生へのオマージュとして演奏する趣向です」。

 日本は楽器の製造数世界一、愛好者人口もずば抜けて多い「フルート大国」だが、聴く側の数は東京文化会館大ホールを1人で満員にできたランパルの時代と比べ、むしろ減っている。「ランパルとオーレル・ニコレ、ジュリアス・ベイカーが東京にそろい、日本フルート協会25周年記念事業の『三大巨匠によるフルートの祭典』に臨み、サントリーホールを満員にした晩を覚えています」と語る工藤は「圧倒的に高い山が消え、裾野だけが広がった状態」を残念に思っている。「最新の演奏でフルート黄金時代の協奏曲を改めてお聴きいただき、うまくいったら毎年、東京チェンバー・ソロイスツの公演を続けていくつもりです」。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年2月号より)

工藤重典プロデュース 東京チェンバー・ソロイスツ Vol.1
2023.2/14(火)19:00 紀尾井ホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728 
https://www.kajimotomusic.com