収録時36歳の俊英バリトン大西宇宙と、89歳の巨匠小林道夫の組み合わせがとてもいい。「詩人の恋」は絶唱といえる。第1曲からピアノの前奏がとても美しく、大西の美声が滑らかにすべり出す。大西が曲ごとに微細なニュアンスをつけ、それに小林が絶妙に応える。第7曲で詩は冷静でも、歌は憤懣やるかたない内心の叫びを吐き出す。こうした熱い歌い回しも大西の魅力だ。シューマンによくある長い後奏では、歌の余韻をかみしめるような小林の音作りが味わい深い。ベートーヴェンは淡白なようで、自然愛や憧憬の気持ちのにじみ出る名唱。シェーンベルクは歌曲の枠組みをはみ出るような野心作で面白い。
文:横原千史
(ぶらあぼ2022年12月号より)
【information】
CD『シューマン:詩人の恋 他/大西宇宙&小林道夫』
シューマン:詩人の恋/ベートーヴェン:遥かなる恋人に寄す/シェーンベルク:2つの歌 op.1
大西宇宙(バリトン)
小林道夫(ピアノ)
BRAVO RECORDS
BRAVO-10010 ¥3300(税込)