小泉和裕(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

リニューアルしたホールに響く名匠との「交響曲第3番」

小泉和裕 (c)Prague Spring Ivan Maly

 約1年10ヵ月の改修工事を経てリニューアルオープンする横浜みなとみらいホールに神奈川フィル定期演奏会が帰ってくる。同ホール再開後、最初の定期演奏会を指揮するのは特別客演指揮者として就任8年目を迎える小泉和裕。名匠が本拠地への帰還をオネゲルの交響曲第3番「典礼風」とベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」で飾る。

 オネゲルの交響曲第3番「典礼風」は小泉が得意とするレパートリー。と同時に、この曲はカラヤンがくりかえし取り上げて世に広めた作品でもある。1973年カラヤン国際指揮者コンクール第1位の小泉にとっては恩師譲りのレパートリーと言ってもよいだろう。

 「典礼風」は3つの楽章から構成され、それぞれには「怒りの日」「深き淵より」「われらに平和を」の題が添えられている。レクイエム的な性格が色濃いが、それもそのはず、作曲は1945年から46年にかけて。これは凄惨な第二次世界大戦を受けて書かれた戦争交響曲なのだ。ときに荒々しくペシミスティックな楽想が嵐のように吹き荒れるが、最後に訪れるのは静謐な「鳥の主題」だ。これは荒れ果てた廃墟なのか、あるいは希望なのか。

 スイス人の両親のもとフランスに生まれたオネゲルだが、ドイツ音楽の伝統から大きな影響を受けており、交響曲の創作においてはベートーヴェン的な精神を受け継いでいる。ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」でも葬送行進曲が登場するが、最後に打ち勝つのは高邁な理想主義だ。現今の社会情勢にこれほどふさわしいプログラムがあるだろうか。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2022年10月号より)

定期演奏会 第381回 
2022.11/19(土)14:00 横浜みなとみらいホール
問:神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107
https://www.kanaphil.or.jp