ピエール゠ロラン・エマール ピアノリサイタル

メシアンのスペシャリストがひもとく「鳥のカタログ」

(c)Marco Borggreve

 2017年のメシアン「幼子イエスにそそぐ20のまなざし」公演の至芸で、大きな話題を呼んだピアノのピエール=ロラン・エマール。幅広いレパートリーを持ち、20世紀以後の作品も得意なエマールだが、現代最高のメシアン解釈者として確固たる地位を占めている。その彼が、3時間にもおよぶ全7巻13曲から成る大作「鳥のカタログ」とともに、再来日を果たす。しかもこの1公演のみのために来日してくれるのだ。

 エマールは、2017年に「鳥のカタログ」を録音し、そのすみずみまで磨き上げられた演奏が大きな話題となった。この畢生の大作には種々の高度な現代技法が詰まっており、メシアン自身が世界各地で採集し、緻密に表現した鳥の声が随所に聞こえてくるのに注目したい。第3巻第6曲「モリヒバリ」は、きらめくような楽句の冒頭から、思わず耳をそばだてたくなる。第7巻第13曲の「ダイシャクシギ」は少々神秘的な趣もあり、長大なこの曲集最後を飾る豊穣な音響も魅力だ。古来、鳥の声を愛でてきた日本人にとって、モダンな響きに彩られながらもどこか懐かしい記憶を呼び覚ます面もある名作である。エマールは2016年のイギリス・オールドバラ音楽祭で、鳥の鳴く時間に合わせて朝4時から翌深夜まで演奏を行う大胆な企画も成功させている。好奇心に満ちた知的なアプローチに支えられたエマールのピアニズム。メシアンが描き出す自然に根ざした豊かな世界にぐっと私たちを引き込んでくれるにちがいない。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2022年10月号より)

2022.11/3(木・祝)15:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp