上野信一(パーカッション)

クセナキスの傑作2篇に臨む

 ストラスブール・フィルやトゥールーズ・キャピトル管で打楽器奏者を務め、フランスでの豊富な活動実績をもつ上野信一。3歳の時、音楽好きの母のすすめで、ラジオに流れていた木琴を習いはじめ、中学生で音楽家を志した上野にとって、今年生誕100年のヤニス・クセナキスは人生において重要な作曲家だ。

 「1972年にストラスブール・パーカッション・グループの来日公演でクセナキスの『ペルセファッサ』を聴いたことが、転機になりました。打楽器を添え物ではなく主役として扱ったエポックメイキング的作曲家が、クセナキスです。実際にお会いしたことがありますが、優しい人柄の方で『私が打楽器に求める音色は、整音された音より、少し歪んだ状態のよく響く音』だと語ってくださいました」

 ストラスブールで「ペルセファッサ」「プレイアデス」等の演奏に幾度も立ち会い、かつて日本で有賀誠門のグループが行った「プレイアデス」世界初録音の一員だった上野が、今回、満を持して両作の録音に臨んだ。共演は、上野信一&フォニックス・レフレクションのメンバー。

 「『ペルセファッサ』と『プレイアデス』が野性味や強い音圧などを必要とする作品だという点を考慮して、峯崎圭輔、亀尾洸一、悪原至、曲淵俊介、新野将之の5人を共演者に選びました。彼らはデジタル世代、私はアナログ世代でリズムの取り方が少し異なりますが、クセナキスの厳格なテンポとリズムを両者の融合によってスリリングに演奏できていると思います」

 東方正教会の伝統楽器のシマントラ、クセナキスが考案した打楽器SIXXEN(シクセン)は初演時の効果をいかすよう、特注する念の入れよう。

 「『ペルセファッサ』でのシマントラはステンレス製、『プレイアデス』で使うSIXXENは微分音のずれをもたらすように製作してもらい、初演時にクセナキスがねらった響きを再現しようと考えました」

 富士見市民文化会館キラリふじみでの3日間の録音は、順調に進んだ。

 「残響が多すぎない良好なホールでした。録音ではライブ感をもちつつ、客観的に演奏できたと思います。『ペルセファッサ』では、エンジニアの方が、マイク位置が真ん中より少し前になるような編集方法を採用し、前後の各奏者の距離感を違えてサラウンドの感じを実現してくださっており、最後に音が渦のようにのぼっていく様を体感できると期待しています。今回の新譜は録音技術に関心のある方はもちろん、クラシックファンの方々にもクセナキスの打楽器音楽の醍醐味を味わっていただきたいと願っています」

 新譜リリース記念の演奏会を12月28日に開催予定とのことで、こちらも楽しみである。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2022年10月号より)

CD『打楽器芸術の遺産 クセナキス:ペルセファッサ|プレイアデス』
コジマ録音 ALCD-7284
¥3080(税込)