アントワン・タメスティ(ヴィオラ) & 鈴木優人(チェンバロ) ~バッハ・プロジェクト~

満を持して実現する、達人たちのバッハの夕べ

左:アントワン・タメスティ 右:鈴木優人
(c)Philippe Matsas Harmonia Mundi

 J.S.バッハを愛する人、ヴィオラを愛する人であれば、この公演を逃すわけにはいかないだろう。紛うことなき世界のトッププレイヤーであるアントワン・タメスティのヴィオラと、指揮者・鍵盤楽器奏者・プロデューサーなど多彩な才人ぶりを発揮する鈴木優人のチェンバロのデュオである。

 「バッハ・プロジェクト」と題された本公演では、「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」3曲が演奏される。ソロ楽器とチェンバロの右手が対等な役割をもち、左手の低音部が支えるソナタだが、タメスティはガット弦を使用しつつ自在な表現で大きな音楽を作りあげ、鈴木は旋律を絶妙に絡み合わせながら万全に支えていく。そこまででもかなりの水準の名演になるはずだが、このふたりが舞台で顔を合わせるとなれば、そんな予想も超えてくるかもしれない。

 さらに、両者がソロを1曲ずつ聴かせるのも楽しみだ。鈴木は「半音階的幻想曲とフーガ」。タメスティは「シャコンヌ」(原曲のニ短調から5度下のト短調)。ことにタメスティの弾く究極的な1曲は、とにかく驚異的な体験になると断言して差し支えないだろう。

 彼らは以前からヨーロッパでは共演を重ねていて、2018年録音のCDも好評を博した。20年に予定されていた王子ホール公演は残念ながら延期になったが、この2年間の鈴木の大活躍ぶりと表現の深化には目覚ましいものがあり、今回の共演も4年前の録音と同じにはならないはず。名人たちの高次元の交歓で、最高のバッハ体験を。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年8月号より)

2022.10/12(水)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp