日本を代表するバリトン4人の磨かれた個性の聴きくらべ
実際、目の前に並んだ4人はハンサムだが、同時に強烈な個性がまばゆい。ユニット名に「ハンサム」とつくのはみな面映ゆいようで、「“ユニット組んでいるよね?”と聞かれると“四兄弟です”って(笑)」(次男の与那城敬)。
長兄の宮本益光によると、「ハンサム」を狙った面もあるが本質ではないという。「ソプラノやテノールと一緒に歌う機会は多いですが、同じ声種の、レパートリーが重なるなどして意識している人たちと一緒にできたらいいな、と考えたのが最初です」。
かつての「三大テノール夢の共演」も、同じ声種の歌手が一緒に歌うことで個性が浮き彫りになったが、いわばそのバリトン版。「みな音楽の持っていき方が絶妙に違う」(四男の加耒徹)ので、「練習でほかの3人の歌に聴き入ってしまい、“すごいな”と思って鼓舞されるところはありますね」と三男の近藤圭が言えば、与那城も「逆に自分には真似できないものがわかるので、自分の進むべき道がはっきり見えてきますね」。
こうして同じ声種の異なる個性が刺激し合うのは、観客にはたまらない魅力だ。「みなレパートリーがかぶっていて、たとえば私がいつも歌っている曲をほかの方が歌うのを聴くと、お客さまにも新しい発見があると思います」(加耒)。
ハーモニーもおもしろい。なにしろ「AROUND THE WORLD 映画音楽で巡る世界一周メドレー」はバリトンの四重唱。「私たちの声をよく知っている加藤昌則さんが、私たちのために組み直してくれて。力強く歌うとすごい4人ですが、同時にハモりたいという欲があるので、とてもおもしろい」と宮本。ただし「音圧はすごいでしょうね」(加耒)。それを浴びるのはさぞかし快感だろう。
だれがなにを歌うかでもめたりしないのか。宮本によれば「選曲を促して困ったことはないですね。みんな幅広いし、それぞれが歌いたい歌を堂々と歌い、そこに聴きくらべのおもしろさもある」。ただ、どの歌も濃い。「肉、肉、肉みたい。肉尽くし、バリトン尽くしみたいな(笑)」と与那城。
そんな4人がいよいよ馬蹄形の本格的なオペラ劇場、よこすか芸術劇場で歌う。「いままでで一番大きな劇場なのでオペラアリアもちゃんと入れます」(宮本)。ただし、だれがどの曲を歌うかは当日のお楽しみで、未知数の楽しみはほかにもある。「それぞれがオペラなどに出演し、その役を背負って集まってくる」と全員が声をそろえる。結果、たがいに受ける刺激は増し、8月7日、すばらしい化学反応が期待できそうだ。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2022年8月号より)
ハンサム四兄弟 オペラティック・コンサート
2022.8/7(日)15:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp