大嶺光洋(バリトン)

日本を代表する作曲家6人による“心が癒される歌”を集めて

(c)Sakiko Nomura

 2020年8月に80歳で初リリースしたCDアルバム『日本歌曲 詩人と作曲家の対話』において、歌詞の深い意味合いまでも明瞭に伝える“ことばを歌う”表現で芸術歌曲を紡ぎ、高く評価されたバリトン歌手、大嶺光洋。その後もコロナ禍にあって更にこの世界と向き合い、今回、より親しみやすい作品を収めた新作アルバムを第2弾として発売した。

 「前作が詩人をテーマにした作品中心の研究発表的な内容でもあったので、今作は演奏家や学習者といったコアな層だけでなく、より広いリスナーに向けて“日本歌曲にこんな優しい歌があったんだ”と思ってもらえるような一枚を目指しました」

 収録曲はいずれも歌曲を柱に据えた作曲家たちが肩の力を抜いて書いた作品。〈夏の思い出〉(中田喜直)や〈花の街〉(團伊玖磨)など戦後ラジオで放送されて人気を集めた大流行歌曲から、金子みすゞの詩による〈ほしとたんぽぽ〉(中田)やお伽噺の世界を歌った〈子守歌〉(團)ら幼児に向けた曲、そして寺山修司のメッセージを伝える歌と多彩だ。

 「どの作曲家も、大人が子どもに歌って聴かせる歌曲が味わい深い。〈サッちゃん〉で知られる大中恩先生の作品は結果として寺山さん作詞の歌曲集『ひとりぼっちがたまらなかったら』から3曲もとりあげたが(このうち〈かなしくなったときは〉は同じ詩に中田喜直が作曲したものも収録)、どれも私のハートを捉えて離さなかったから」

 戦後に頭角を現し、今も多くの人々に愛奏されている合唱曲やピアノ曲で知られる湯山昭の作品は、まだ比較的新しい“青春の歌”が集められているのも印象的。

 「(娘で著述家・プロデューサーの)湯山玲子さんの言葉を借りるなら音に“色気”がある。独自の表現手法を持っていて、特に1985年作曲の〈糸繰り唄〉の和声には驚かされるはずです」

 狐になりきって歌う〈仔ぎつねの歌〉も素晴らしいが、三善晃作品を歌う研ぎ澄まされた音感覚も見事。

 「難解ですが、透明感に溢れる〈駅〉をとっかかりとして独特な世界に入っていける…ピアノもたいへんですが、今回も宮崎(芳弥)さんが頑張ってくれました」

 最後を飾るのは、近年引く手あまたの現代を代表する人気作曲家、木下牧子の作品。特にやなせたかしの詩による〈さびしいカシの木〉と〈ロマンチストの豚〉のあたたかい歌い口が圧巻だ。

 「本当に木下さんはずば抜けた才能の持ち主。木下さんの変幻自在なアイディアはスゴイの一言ですね。最近は教科書からも消えつつある日本歌曲というジャンルですが、私も声が年寄るまでは歌い続けて、皆さんにお届けできたら嬉しい限りです!」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2022年8月号より)