自然の中で、より立体的な音楽と出会える夏の3日間
特定の演目や演奏家の音楽という「点」を徹底的に味わう場が日頃の演奏会だとすれば、その「点」を含む時空全体をより立体的に体感できるのが音楽祭だ。
この夏、新たに発足する「箱根おんがくの森2022」は、山奥へ向かう非日常感溢れる行程の先で「音楽とはなにか」を五感で再考する喜びを味わえそうな企画が続々。昔日の宮廷音楽から近現代まで演目は幅広く、舞踊や身体表現を交えた公演や屋外の自然音ありきで展開する企画が目を惹く。未就学児OKの公演もあり、地元ジュニアオーケストラの出演や和楽器の絹糸とバロック羊腸弦に関するレクチャーなどフェスらしい仕掛けにも事欠かない。
ヴィオラ・ダ・ガンバ福澤宏、フラウト・トラヴェルソ野崎真弥ら第一線の古楽器奏者たちに加え、横浜シンフォニエッタの一員で音楽祭実行委員長を務めるヴァイオリン大光嘉理人、チェロ上村文乃、音楽祭を立ち上げたアートディレクター布施砂丘彦ら現代楽器・古楽器を併用するプレイヤーが時代の風を感じさせる。布施はミヒャエル・ハイドン・プロジェクトや古楽実験工房での古楽器演奏の他、演劇性と隣り合わせのユニークな公演でも注目を集めるコントラバス奏者。古民家や倉庫といった日常隣接空間での演奏行為を追求するアーティスト集団「あちらこちら」が、アートマネージャー篠原美奈とともにアサインされているのも頷ける。
古来「森」は実りをもたらすだけでなく、陽光を隔てられた未知空間として通過儀礼の場にも使われてきた。この音楽祭の会場を後にする時、あなたの音楽観はどう変化しているだろうか。
文:白沢達生
(ぶらあぼ2022年7月号より)
2022.8/5(金)〜8/7(日) 箱根湖尻アートビレッジ、仙石原文化センター 他【配信あり】
問:箱根おんがくの森 実行委員会 hakone.ongakunomori@gmail.com
https://www.hakoneongakunomori.com