須藤千晴(ピアノ)

ピアノ作品の“宝石”をちりばめて

 「ジェム gems 」とは宝石のこと。一粒ごとに、そして見る角度によって宝石は多彩な輝きを放つ。須藤千晴の新譜『ジェム』は、まさにピアノ作品の“宝石”をちりばめている。ドビュッシー、リスト、メンデルスゾーンの作品群から9曲を選んだ。
「どれもいわゆる『大曲』ではないけれど、私が過去10年間にステージ上で演奏を重ねてきた『逸品』ばかり。曲順は作曲家ごとにまとめるのではなく、それぞれの終わりと開始の音の関係で並べています。逸品の新しい輝きを感じていただけるのではないでしょうか」
 東京芸大を卒業後ベルリンで研鑽を積み、現在はソロリサイタルのほか室内楽コンサートにも力を入れて活躍中の須藤。そんな彼女にとって「音色を追求する上で、とてもしっくりくる作曲家はドビュッシー」だと話す。アルバムでは「月の光」を冒頭に置き、「ドビュッシーとしては珍しく強音で終わる曲」として「喜びの島」、「ちょっとお腹がいっぱいになるアラカルト」として「版画」全3曲も収めた。音の粒立ちが見事な「雨の庭」では巧みなペダル使いが感じられる。
「最近ペダリングの工夫にハマっています。ダンパーがほんの少しだけ上がるようにギリギリの浅さでふむと、濁らずに美しく繋がる響きになります。精密なペダル操作をしたくて、レコーディングは裸足で行いました」
 リストの「ラ・カンパネッラ」は「打楽器的な『鐘』の響きよりも、ピアノで奏でる美しく悲しい『鐘の響き』を意識してみました」と語る。さらにリストはシューマンの歌曲に基づく「献呈」、そしてアルバム後半に「愛の夢」第3番も含むが、須藤の演奏は甘いだけに留まらない。
「『愛の夢』の『愛』とは『人間愛』であると知り、太く芯のある音、チェロのような音色をイメージして弾きました。『男性的な音色ですね』と言われることもあって嬉しく感じています」
 メンデルスゾーンは「ロンド・カプリチオーソ」、そしてアルバムの締めくくりに「スコットランド・ソナタ」を置いた。
「非常に技巧的な作品ですが、重厚な響きというよりも、とてもスマートでお洒落。メンデルスゾーンはさらりと巧みなことをやってしまう作曲家ですね」
 8月から来年2月にかけては、シェーンベルクのソロと室内楽を含むピアノ作品全曲演奏会を予定。「耳が研ぎすまされるような作品ばかり。共演者も豪華ですので楽しみにしていてください」と澄んだ瞳の奥に意欲を覗かせる。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

シェーンベルク ピアノソロ作品全曲シリーズ
シリーズ1(ピアノソロ)
8/30(土)16:00 ベーゼンドルファー東京展示サロン
問:ベーゼンドルファー東京 03-6681-5189
*シリーズ2〜4の詳細は下記公式ブログでご確認ください。
http://ameblo.jp/chiharu-sudo

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