荘村清志 × 福田進一 × 猪居亜美(以上ギター)

レジェンドとミューズら豪華共演、濃厚で熱いギター・フェス

 ギター・ファンは毎年夏の終わりが待ち遠しい。8月最終週恒例の「Hakuju ギター・フェスタ」が今年も3日間にわたって開催される。昨年に続き「原点回帰」をテーマに、独奏を軸にした構成だが、じつに濃厚な中身で、ギターの魅力を例年にも増してバラエティ豊かに味わえそうだ。プロデューサー役は荘村清志と福田進一の大御所二人。注目の若手・猪居亜美が初出演する。

福田「今年は、若いミューズたちにスポットを当てようということでスタートしました。朴葵姫さん、そして猪居亜美さん。

 亜美さんは大阪音大で僕の生徒でしたが、小さい頃から知っていたんです。お父さんが僕と同世代のギタリストで、お兄さんの謙さんもギタリスト。お兄さんが僕のところにレッスンに来た時にベビーカーに乗ってたのが亜美ちゃんだった」

荘村「僕から見たら孫みたいな年齢。エネルギーを十分に吸い取って(笑)、若返ろうと思っています」

猪居「荘村先生、福田先生、葵姫さん、そして押尾コータローさんという、びっくりするぐらい豪華な皆さまとの共演。いろいろなものを吸収させていただけるように、そして足を引っ張らないように(笑)、頑張りたいです」

福田「2020年のGFA(全米ギター協会)の国際コンクールで、亜美さんは一次予選を通過して、でもそこでコロナで中止になってしまったんですね。僕は審査員だったんですけど、あのまま続いていたら何か起こったと思う。惜しかったよね」

 フェスタ初日の前半は、その猪居のソロ。上述の2020年GFAの課題曲だったジョージ・ロックバーグの「カプリス変奏曲」(エリオット・フィスク編曲)を弾く。パガニーニの有名な主題を50の変奏曲にした作品。全曲だと約70分の大作だ。

猪居「現代の作品ばかり、ちょっとマニアックな選曲をしてしまいました(笑)。人気のアンドリュー・ヨークの作品も、2012年のGFAの委嘱作品なんですけれども、日本ではまだほとんど弾かれていない曲。今までの彼の作風とはまったく違って……」

福田「タイトルが面白い(笑)。『Just How Funky Are You』(なんてファンキーなお前)」

猪居「というタイトルからは想像できない(笑)、素晴らしい作品です」

 初日後半には押尾コータローが登場。長年のオファーが実った。クラシック・ギターの祭典の番外編的な、アコースティック・ギターの超絶技巧に大注目。

 2日目前半は朴葵姫。ヴィラ=ロボス&バリオスの王道プログラムで、彼女の代名詞であるトレモロはもちろん、繊細でオーソドックスなギター表現をたっぷりと聴かせる。

 続くのは福田進一のピアソラ特集。ちょうど5月にニュー・アルバム『ピアソラ・トリビュート』をリリースしたところ。

猪居「鈴木大介さん編曲の『リベルタンゴ』が気になります」

福田「すごいですよ。新たに作ってもらったの。みんなが飛びつくレパートリーになると思います」

 そして最終日。前半は荘村清志でポップス名曲選という変化球。アコーディオン奏者のcobaによる編曲だ。

荘村「サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』『スカボロー・フェア』とか、若い頃を懐かしみながら。cobaさんの編曲は、原曲のメロディだけじゃなく、彼のオリジナルも入ってきて、すごく面白い作品になっています」

 フィナーレは荘村、福田と朴の3人による華やかなアンサンブル。恒例の委嘱作品はマキシモ・ディエゴ・プホールのデュオ曲「アストルの宇宙」。荘村&福田が初演する。

 若手奏者の登竜門「旬のギタリスト」も見逃せない(2日目)。パリ音楽院在学中の井本響太が登場する。

荘村「東京音大で僕が教えていたのですが、最近の映像を見たら、素晴らしく変貌していました」

福田「彼の弾く、マイケル・ティペットの『ザ・ブルー・ギター』というのはなかなか勇気のいる難曲。これを本番でやる日本人が出てきたのはすごいね」

 楽しみしかないラインナップ。必聴だ。
取材・文:宮本 明 写真:吉田タカユキ
(ぶらあぼ2022年7月号より)

Profile】
荘村清志(左上)
実力、人気ともに日本を代表するギター奏者。1963年に巨匠イエペスに認められ、翌年スペインで師事。74年NHK教育テレビ「ギターを弾こう」、2007年同「趣味悠々」に講師として出演。武満徹をはじめ委嘱作品や新作初演も多数。「荘村清志スペシャル・プロジェクト」(全4回)に取り組み、19年にはデビュー50周年を迎えた。20年、書籍「弾いて飲んで酔いしれて ギターとともに50年」(吉田純子編著)を出版。21年、最新盤「旅の思い出」をリリース。東京音楽大学客員教授。
福田進一(左下)
1981年パリ国際ギターコンクールでグランプリ優勝。以後約40年に亘り、ソロ・リサイタル、主要オーケストラとの協演、超一流ソリストとの共演を続け、ボーダーレスな音楽への姿勢は世界中のファンを魅了している。2019年公開の映画「マチネの終わりに」(監督:西谷弘、主演:福山雅治、原作:平野啓一郎)ではクラシックギター監修を担当。ディスコグラフィーは既に100タイトルを超える。平成19年度「外務大臣表彰」受賞。平成23年度芸術選奨「文部科学大臣賞」受賞。
猪居亜美(右)
自身のYouTubeチャンネル登録者数は8万人を超える。1993年大阪市生まれ。4歳より父、猪居信之に師事しギターを始める。2012年より大阪音楽大学にて藤井敬吾、福田進一の両氏に師事。これまでにリリースしたアルバムはいずれもレコード芸術特選盤に選出される。21年にはMBSお天気部 秋のテーマ にマシュー・ロー氏作曲「Promenade〜秋晴れ〜」でギタリストとして参加。

Information
第16回 Hakuju ギター・フェスタ 2022 
原点回帰2 〜ギター・ヒーロー&ミューズ&レジェンドの饗宴〜


《第1日》
第一夜 2022.8/19(金)19:00
Part1 猪居亜美 ソロ(アンコールゲスト:朴 葵姫) 
Part2 押尾コータロー ソロ(アンコールゲスト:荘村清志、福田進一)

《第2日》
旬のギタリストを聴く 井本響太 リサイタル 2022.8/20(土)16:00
第二夜 2022.8/20(土)18:30
Part1 朴 葵姫 ソロ(アンコールゲスト:猪居亜美) 
Part2 福田進一 ソロ(アンコールゲスト:荘村清志、朴 葵姫、猪居亜美)

《第3日》
フィナーレ 2022.8/21(日)15:00
Part1 荘村清志 ソロ(アンコールゲスト:福田進一)
Part2 ギター・アンサンブル 〜委嘱新作・世界初演
   出演:荘村清志、福田進一、朴 葵姫

Hakuju Hall
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