ナチスに家族を殺され、ソヴィエトでは反ユダヤ主義の影響で逮捕されるなど、不遇の経験を重ねたヴァインベルク。3つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、固く厳しい作風の中に痛々しいメッセージが封じ込められた重要作。バッハのような重厚な構えに悲痛な感情が滲む1番、変化に富む流れに自伝的要素が感じられる3番など、20世紀ソロ作品としても屈指の傑作集。ヴァインベルク演奏をライフワークとする巨匠クレーメルは、往年と変わらぬ異様なまでの集中力、圧巻のキレと名技をみせて、凄絶な名演を実現。クレーメルの代表的名盤になるはずだし、不安の時代にその価値はいや増す。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年6月号より)
【information】
CD『ヴァインベルク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集/ギドン・クレーメル』
ヴァインベルク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番・第2番・第1番
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ユニバーサル クラシックス
UCCE-2097 ¥3080(税込)