井上道義(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団

オルガン、和太鼓との競演で壮大に描く音のスペクタクル

 井上道義は2024年12月末での引退を宣言した。最近は本当に指揮したい作品を選び、これが最後と凄みのある演奏を展開、その姿は鬼気迫るものがある。5月13日、14日の新日本フィル「すみだクラシックへの扉」は井上が選んだ創意あふれるプログラム。

 新実徳英が1997年にすみだトリフォニーホールからの委嘱で書いた「和太鼓とオルガンとオーケストラのための『風神・雷神』」の再演がまず目を惹く。和太鼓の林英哲とオルガンの石丸由佳が登場し、オーケストラとともに大自然の中に身を置くような雄大な演奏を繰り広げる。和太鼓やオルガン本来の響きはホールの空間でしか味わえない。「風神・雷神」という名にふさわしい巨大な音響を体験できることだろう。最後の和太鼓とオルガンのスリリングなアドリブがどのようなものとなるのかも興味深い。

 1曲目のサン=サーンス「糸杉と月桂樹」は、第一次世界大戦の犠牲者の鎮魂と勝利の凱歌を描いたとされる。前半の“糸杉”はオルガン独奏、後半の“月桂樹”は金管の輝かしいファンファーレに始まり、最後はオルガンと管弦楽の勇壮な行進曲となる。若い頃にバレエを習っていた井上は舞踊音楽を得意とする。ファリャ「三角帽子」とラヴェル「ボレロ」は、卓越したリズム感と色彩豊かな指揮に期待したい。これら3曲は井上が様々なオーケストラで指揮してきた十八番のレパートリーでもある。スペクタクルでドラマティックな作品での情熱的な指揮は、これまで数々の名演を生んできた。井上道義の円熟のタクトを味わいたい。
文:長谷川京介
(ぶらあぼ2022年4月号より)

すみだクラシックへの扉 第7回 
2022.5/13(金)、5/14(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp