絶妙のバランスと、自然な音楽の流れ。緩徐楽章では平安な音の森へ泰然と歩みを進め、舞曲楽章では躍動感を湛えつつ、決して饒舌すぎることはない。今年で80歳を迎える名チェリスト・堤剛による、2008年の無伴奏組曲の名録音。リマスタリングにより、奥深い音楽作りが、一層の立体感を纏った。豊潤な低音域と、天へ駆け上る高音域。鮮烈に描き分けられる、6曲各々の色彩感。特に第6番は、普通のチェロを使いながらも、「ハイポジションの技巧を強調するのでなく、(高音域用のE線を備えた)5弦の楽器で自然に鳴らした感じに」との堤の意図が見事に生き、大らかな空気を醸し出す。
文:寺西肇
(ぶらあぼ2022年2月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)/堤剛』
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番〜第6番
堤剛(チェロ)
マイスター・ミュージック
MM-4502-03(2枚組) ¥4400(税込)