【特別エッセイ】
音楽評論家・東条碩夫の東京春祭逍遙2022

 「東条碩夫のコンサート日記」でもおなじみの音楽評論家、東条碩夫。FM東京で数多くの音楽番組に携わり、書籍、内外のコンサートやオペラのレビュー、オペラ講座などでクラシック音楽の魅力を伝え続ける東条が、東京春祭2022の注目の公演について、その想いを寄せる。


文:東条碩夫(音楽評論家)

♪おなじみの演奏会形式オペラ

 またワーグナーか、とご不満の方もおられようが、東京春祭のワーグナー・シリーズは、聴き応えもあるし、やはり一つの「偉業」ではないかと思われる。主要作品10曲のうち《トリスタンとイゾルデ》を残してこの2年間、新型コロナの影響で中断されていた。今回は2018年にウルフ・シルマー指揮で上演されたことのある《ローエングリン》の再演となるが、指揮のマレク・ヤノフスキ、題名役のヴィンセント・ヴォルフシュタイナーほか、顔ぶれも大半を一新して演奏されるので、興味をそそられる。オーケストラは例年通りNHK交響楽団(3/30, 4/2 東京文化会館 大ホール)。

左より:マレク・ヤノフスキ、ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー、
リカルダ・メルベート、ピエール・ジョルジョ・モランディ

 もう一方の目玉商品たるイタリア・オペラの方は、今回はプッチーニ最後の大作、あの〈誰も寝てはならぬ〉で有名な《トゥーランドット》だ。リカルダ・メルベートが題名役を歌うのが最大の聴きどころ。指揮はピエール・ジョルジョ・モランディ。オケにパワー抜群、絶好調の読売日本交響楽団が出るのもありがたい(4/15, 4/17 東京文化会館 大ホール)。

 私が興味津々なのはもう一つ、2年越しの延期になっていたブリテンの《ノアの洪水》が加藤昌則の企画構成・指揮・お話、宮本益光(ノア)、波多野睦美(その妻)、玉置孝匡(神の声)、および小編成のオケで上演されることだ。めったに聴けない神秘劇のようなオペラだから、こういう時に接しておくに限る(4/1 東京文化会館 大ホール)。

左より:加藤昌則、宮本益光、波多野睦美、玉置孝匡

オーケストラと合唱

 東京春祭オーケストラを巨匠リッカルド・ムーティが指揮するのが開幕を飾る大イべント(3/18, 3/19)だが、詳細はこれからの発表なので、ここでは英国の若手指揮者アレクサンダー・ソディと東京都交響楽団によるマーラーの壮麗雄大な交響曲第3番(4/10 東京文化会館 大ホール)に注目しておこう。これは「東京春祭 合唱の芸術シリーズ」に組み込まれている演奏会なのだが、ただその合唱(東京オペラシンガーズと東京少年少女合唱隊)は、1時間40分もかかる長大な曲の中で短い第5楽章にしか出て来ないので、結局はマーラーの音楽が魅力の中心になるだろう。ちなみに東京オペラシンガーズの合唱は、「にほんのうたⅪ」(3/23 東京文化会館 小ホール)でも楽しめる。

左:リッカルド・ムーティ 右:アレクサンダー・ソディ

リサイタル〜4月公演の中から

 聴きたいものばかりだが、なかには既述のものと日時がかち合う演奏会もある。とにかくこれも私の好みで言わせていただくと、まず声楽では、音楽祭の千秋楽公演ともなるブリン・ターフェルの「Opera Night」(4/19 東京文化会館 大ホール)。沼尻竜典指揮東京交響楽団との協演でワーグナーやベートーヴェン、ヴェルディなどを歌うもので、これは第一番に楽しみにしているところだ。リカルダ・メルベートもワーグナー、R.シュトラウスのオペラからの曲を歌うが、こちらはピアノ伴奏で、どういう演奏になるか(4/10 飛行船シアター(旧上野学園 石橋メモリアルホール) /22年3月「飛行船シアター」としてリニューアルオープン予定)。エギルス・シリンスのロシア歌曲やシューベルト(4/1 東京文化会館 小ホール)、マルクス・アイヒェのブラームス(4/11 東京文化会館 小ホール)にも興味をそそられる。

左より:ブリン・ターフェル、沼尻竜典、エギルス・シリンス、マルクス・アイヒェ

 器楽のほうのラインナップもいい。オーボエのフランソワ・ルルーの2つのコンサート―― トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアとの演奏会(4/6 東京文化会館 小ホール)、ピアノとのデュオ公演(4/8 東京文化会館 小ホール)はいずれも聴いてみたいし、さらにピアノのアレクサンドル・メルニコフ(4/7 東京文化会館 小ホール)、アンドレアス・シュタイアー(4/12 東京文化会館 小ホール)、シュタイアーとメルニコフのデュオ(4/9 東京文化会館 小ホール)が、いずれも私の好きなシューベルトの作品集をプログラムに組んでいるとは、なんとも幸せなことである。一方、久々のデジュー・ラーンキのリサイタル(4/13 東京文化会館 小ホール)は、ハイドン、ドビュッシー、ベートーヴェンの作品集で、これはもちろん聴き逃せない。願わくは、これらそうそうたる顔ぶれの海外アーティストたちが、予定通り無事に来日できますように。

左より:フランソワ・ルルー、アレクサンドル・メルニコフ、アンドレアス・シュタイアー、デジュー・ラーンキ

多士済々の室内楽

 室内楽の分野もかなりの数の演奏会があってうれしいが、選択にも悩む。「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」(樫本大進らによるベートーヴェン、ブラームスなど。3/19 東京文化会館 小ホール)以外は比較的日本勢の出演が多いが、海外に本拠を置くアーティストたちも少なくないから、情報に注意しながら公演を待とう。

左より:樫本大進、アミハイ・グロス、オラフ・マニンガー、オハッド・ベン=アリ

 私が聴きたいと思っているのは、たとえばチェロの岡本侑也とピアノの河村尚子が協演するドビュッシー、プーランク、ブラームスなどのソナタを集めた演奏会(3/25 東京文化会館 小ホール)、ヴァイオリンの辻彩奈やホルンの福川伸陽、ピアノの阪田知樹ほかの名手たちによるブラームスのセレナード第1番、ピアノ四重奏曲第3番(ブラームスの室内楽 IX 3/26 東京文化会館 小ホール)、中国の颯 SA 室内楽団の初演曲を含むプログラム(3/26 旧東京音楽学校奏楽堂)、白井圭・門脇大樹・津田裕也の「Trio Accord」によるチェコのピアノ三重奏曲集(3/29 飛行船シアター(旧上野学園 石橋メモリアルホール)/22年3月「飛行船シアター」としてリニューアルオープン予定)、郷古廉らによるバルトーク集(4/14 東京文化会館 小ホール)―― などだが、他にもそれぞれの好みに合うであろう演奏会が、まだたくさんある。

上段左より:岡本侑也、河村尚子、辻彩奈、福川伸陽
下段左より:阪田知樹、Trio Accord、郷古廉

名物のマラソン・コンサートは4月3日に

 東京文化会館小ホールで、午後から夜にかけ、各90分のコンサートが3回(4/3 東京文化会館 小ホール)。全部聴くかどうかは各々の気力と体力によるだろう。今年は「音楽・医学・文学」という凝ったテーマで、「瀉血されるモーツァルト」「外科医と旅するブラームス」「自然療法にはまるワーグナー」という笑えるタイトルの演奏会が並んでいる。一部発表されている演奏曲目もなかなか面白そうである。


【Profile】
東条碩夫(トウジョウ・ヒロオ)
早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作全体に携わる。75年文化庁芸術祭大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」委嘱)制作。  のちFM静岡編成制作部長、FM東京制作一課長、「ミュージックバード」(CS-PCM衛星デジタル・ラジオ)編成部長等歴任。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿、TV、FM番組に出演。 著書「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(音楽之友社刊)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他、共著多数。
東条碩夫のコンサート日記 http://concertdiary.blog118.fc2.com




【発売情報】
●発売中

2022.3/30(水)17:00、4/2(土)15:00 
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13 《ローエングリン》(演奏会形式/字幕付)

https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_lohengrin/
2022.4/1(金)19:00 ベンジャミン・ブリテンの世界 IV 
20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_the_world_of_benjamin_britten/
2022.4/10(日)15:00 東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.9 マーラー《交響曲第3番》
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_mahler/
2022.4/15(金)18:30、4/17(日)15:00
東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.3 《トゥーランドット》(演奏会形式/字幕付)

https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_turandot_17/
2022.4/19(火)19:00 ブリン・ターフェル Opera Night
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_terfel_opera_night/

●12月19日(土)発売
2022.3/19(土)15:00 ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_bpo/
3/23(水)14:00 にほんのうた XI 〜東京オペラシンガーズ合唱で聴く美しい日本のうた
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_japanese_songs_xi/
3/25(金)19:00 岡本侑也(チェロ)&河村尚子(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_okamoto_and_kawamura/
3/26(土)15:00 ブラームスの室内楽 IX
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_brahms_chamber_music_ix/
3/26(土)18:00 颯 SA 室内楽団
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_sa_chamber_group/
4/1(金)19:00 東京春祭 歌曲シリーズ vol.32
エギルス・シリンス(バス・バリトン)&マールティンシュ・ジルベルツ(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_egils_silins/
4/6(水)19:00 
フランソワ・ルルー(オーボエ)の世界 I with トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_the_world_of_francois_leleux_i/
4/7(木)19:00 アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_alexeander_melnikov/
4/8(金)19:00 
フランソワ・ルルー(オーボエ)の世界 IIフランス作品集 ー Bienvenue en FRANCE
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_the_world_of_francois-leleux_ii/
4/9(土)18:00 アンドレアス・シュタイアー(ピアノ)&アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_andreas_staier_and_alexander_melnikov/
4/11(月)19:00 東京春祭 歌曲シリーズ vol.28
マルクス・アイヒェ(バリトン)&クリストフ・ベルナー(ピアノ)

https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_markus_eiche/
4/12(火)19:00 アンドレアス・シュタイアー(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_andreas_staier/
4/13(水)19:00 デジュー・ラーンキ(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_dezso_ranki/
4/14(木)19:00 東京春祭〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズ vol.2
郷古 廉(ヴァイオリン)&加藤洋之(ピアノ)血と氷〜バルトークの宇宙

https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_sunao_goko_hiroshi_kato/

●1月発売予定
2022.4/3(日)第I部 13:00、第II部 16:00、第III部 19:00
東京春祭マラソン・コンサート vol.12音楽・医学・文学ヨーロッパをつくった3つの響き

https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_marathon_vol12/

●発売延期
2022.4/10(日)16:00 
東京春祭 歌曲シリーズ vol.34 リカルダ・メルベート(ソプラノ) &三ツ石潤司(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_ricarda_merbeth/
2022.3/29(火)19:00 
Trio Accord ―― 白井 圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2022_trio_accord/

●詳細調整中
リッカルド・ムーティ指揮東京春祭オーケストラ