鈴木雅明(指揮) バッハ・コレギウム・ジャパン《第九》

透明度の高い響きがベートーヴェンのメッセージを伝える

 年末に「第九」の公演があるのは当たり前、と誰もが思っていた。しかし、2020年はすっかり様相が変わって、中止のニュースが次々と発表され、どこか宙ぶらりんな年末になりそうだった。そんな時、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が「第九」公演を開催するというリリースが気持ちをパッと明るくしてくれた。その演奏に接した時、あらためて「第九」という作品の持つ確かな重さを感じたと同時に、ピリオド楽器オーケストラの響きと、バッハの声楽作品で鍛え抜かれた合唱が作り出す晴れやかなアンサンブルの開放感を味わい、新しい「第九」の魅力を発見した思いがした。

 そして、今年もBCJが「第九」公演を開く。4人のソリストは、中江早希、藤木大地、宮里直樹、大西宇宙とがらりと変わったが、いずれも国内外で活躍する歌手で、その実力は音楽ファンの間でも注目の的である。もちろんオーケストラ、合唱はBCJが担い、鈴木雅明が全体をリードする。

 この「第九」公演を聴くべき理由はたくさんあるが、すでに50歳を過ぎ、人生の最終コーナーを回っていたベートーヴェンの頭脳に去来していた様々なアイディアの断片が、この巨大な作品のそこここに煌めいており、単にひとつの作品を聴くという以上の体験をもたらしてくれるという点が大きいのではないかと思う。そして、それを21世紀において再現する時に、演奏家が常に突きつけられている努力もまた“聴きどころ”のひとつだろう。今年も楽しみな年末が巡ってくる。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2021年12月号より)

2021.12/16(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp