甲斐史子(ヴァイオリン)& 大須賀かおり(ピアノ)

アイヴズのアルバムが高評価! 「ROSCO」の二人に聞く

左:大須賀かおり 右:甲斐史子
(C)Ayane Shindo

 ヴァイオリンの甲斐史子とピアノの大須賀かおりのデュオ「ROSCO(ロスコ)」が2019年末にリリースしたアイヴズのヴァイオリン・ソナタ集(CD)が、令和2年度の文化庁芸術祭賞レコード部門優秀賞を受賞した。

 アメリカの作曲家チャールズ・アイヴズ(1874〜1954)。名前は知っているけれど実際に作品を聴く機会は案外少ないかもしれない。現代音楽のフィールドで活動するROSCOの二人も、CD制作のきっかけになった6年前のコンサートで初めて弾いたのだそう。

 大須賀「ふだん新しい曲を弾くことが多いので、アイヴズはわりと古典的という印象でした。でも、弾いてみるとすごく面白い。どこに何が隠れているのか、謎解きのような感じなのですが、だんだん見えてくるものがある。それを超えたところにジーンと感動がくる」

 甲斐「アイヴズが描いた線画の上に、私たちが色を塗るような感覚。そしてそれがだんだん立体的に見えてくる。二人で同じように、ときには違う感覚も持って、デュオとして仕上げることができたと思います」

 ちなみにデュオ名の「ROSCO」は、アメリカの画家マーク・ロスコ(Mark Rothko)に由来するそう(スペルを変えている)。キャンバスを色数の少ない色面で塗り分ける抽象画家だ。「塗る」感覚は二人にマッチする。

 アイヴズ作品の特徴のひとつが賛美歌やフォークソングなどの引用だ。

 甲斐「原曲を調べてイメージはします。でもそんなには意識しないで、全体の中でどんな感情を持つのかを感じて弾いていました。賛美歌は、教会ではもっと静かに内省的に歌うかもしれないけれど、私がそこで泣きたいと感じたら泣いて歌ったり。でも次に弾くときにはもっとさらっと弾くかもしれないし、大須賀さんの音に触発されてまた違ったり。そこが面白い」

 こだわったという銅版画家・松本里美描き下ろしのアートワークも楽しげで(彼女たち二人も描き込まれている)、充実の解説とあわせ、じつに手に取りたくなるアルバムだ。
 2024年は作曲家の生誕150年。高い評価を得たこのソナタ集が、アイヴズ再発見の大きなきっかけになるはずだ。

 甲斐「入り口が多い作曲家。そこに入れば、一気に好きになってもらえると思うので、いろんなジャンルの音楽ファンに聴いてほしいですね」
 大須賀「弾くのは大変ですが(笑) けっして難しい音楽ではない。先入観なく聴いてもらえば、きっと楽しいと思います」

 ピアノ三重奏曲や弦楽四重奏曲を入れた第2集の計画もあるらしい。アイヴズを聴いてごらんよ!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年4月号より)