冨永愛子(ピアノ)

“気持ちの良い満腹感”があるリサイタルを目指します

 2008年に開かれた第6回東京音楽コンクールで優勝を果たし、現在はドイツでさらなる研鑽を積むピアニストの冨永愛子が、同コンクールの入賞者リサイタルへ登場する。「音にこだわり続けたい」と、音楽的にも人間的にも劇的な変貌を遂げている俊英が、自らの“いま”を投影するステージ。「演奏会とは、特定の空間に集まった人々が“音”に意識を集中させる時間。だから、そのクオリティを高める努力を惜しまずにいたい」と語る。
「演奏には、奏者の“人となり”が表れるもの。これはあくまで自然と出てしまうものですよね。私は、奏者が作曲家のメッセンジャーであり、作品のフィルターとなるものと考えているからこそ、作曲家が楽譜に残したメッセージを読み解く、“人間力”を人生を通して高めていきたい」と熱い思いを吐露する。
「プロとしてやっていく覚悟が決められた」という東京音コンでの優勝。最終審査での演奏の際のステージマナーについて審査員の1人から注意を受けた経験が、特に役に立ったと振り返る。
「あの時の私は『演奏が全て』で、それさえ磨けばいいという甘い意識でいたため、面食らったような気分でした。しかし今では、学べて良かったと、とても感謝しています」
 今回のステージでは、前半でスカルラッティの3つのソナタと、ベートーヴェン「ワルトシュタイン」を。そして、後半ではラフマニノフの3曲の小品と、プロコフィエフのソナタ第6番「戦争ソナタ」を配した。 「プログラミングはよく、料理のコースに例えられますが、想像力を働かせて、最後のデザートまで美味しく食べられるように、そして“気持ちの良い満腹感”を得ていただけるよう努めています。ただ私、料理が下手なせいか、今も試行錯誤中で…(笑)」。
 冨永にとって、ラフマニノフは特別な作曲家だと言う。
「ピアニストとしてのラフマニノフも尊敬しています。コンクールの2次予選とファイナルでも弾きました。今回の作品は、作曲家本人が自身の歌曲から編曲したもので、わずか数分の中に壮大なドラマや、繊細な香りが散りばめられた、本当に美しい作品たちです」と思い入れを語る。
「周囲に才能を持つ人も多く、禁欲的に自分を磨くことの大切さを改めて感じる」と言うドイツでの留学生活。
「まず自分自身の耳が、厳しく良い先生でなければとの意識が強くなりました」
 それでは、自分にとって音楽とは?
「私の人生を豊かにしてくれるもの。人間の一生のうちに知り得ることなんて、ごく僅かかもしれませんが、それでも音楽によって、思想や魂の揺さぶりを感じ取れるのは、何にも代えがたい幸せです」
取材・文:笹田和人
(ぶらあぼ2014年2月号から)

★3月2日(日)・東京文化会館(小)
問:冨永愛子ピアノ・リサイタル実行委員会 090-4742-3554
  東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650