15ヵ月ぶりに読響へ帰ってきました、このオーケストラとの仕事は楽しい!
〜ドイツ人常任指揮者、セバスティアン・ヴァイグレにインタビュー〜
読売日本交響楽団(読響)第10代常任指揮者のセバスティアン・ヴァイグレが2019年9月以来、15ヵ月ぶりに戻ってきた。川崎市内の読響練習場に足を踏み入れると、つい4日前にマキシム・パスカルの指揮で聴いたフランス風のサウンドは消え去り、ヴァイグレ流のドイツ音楽の響きが見事に復活していた。「(自粛していた)空白期間が嘘のよう。皆、反応がいい。このオーケストラとの仕事は本当に楽しい」とご機嫌だ。12月定期と一連の「第九」公演後も日本にとどまり、2021年1月に3種類のプログラムを指揮する予定。それぞれの演奏会に込める思いなどについて、話を聞いた。
ーー2020年はベートーヴェン生誕250年でしたが、「第九」は日本の年末特有の催しでもあります。これまでも頻繁に指揮してきたのですか?
いえ、ハンブルクやフランクフルトで2、3回演奏しただけです。今回が4回目でしょうか。日本では1918年に徳島県の板東俘虜収容所でドイツ兵たちが初演して以来、明治政府の政策もあって、人々のドイツ音楽への渇望を一身に担う作品となりました。たくさんの日本人音楽家が100年以上かけてベルリン、ミュンヘン、デトモルトなどで学び、ドイツの音楽や言語を当たり前のようにこなすこと自体が、世界でも非常に特異な展開でしょう。
「すべての人々」のための合唱音楽という点でも、モーツァルトやヴェルディの「レクイエム」などキリスト教会と深く結びついた宗教音楽の枠を超え、それぞれの人種や国民にとっての“神”を希求しています。もちろん白眉は第4楽章ですが、ハイドンの「天地創造」を思わせる第1楽章の始まりからして惹きつけられます。
今回の公演に備えてベーレンライター新版のスコアを一から読み直しました。今回、合唱はプロ40人に絞りましたが、オーケストラはほぼフル編成です。私が日本で「第九」を指揮する上で強く希望した独唱者を日本人とドイツ人半々(2人ずつ)にする計画も実現できて幸いです。
ーー新年の名曲プログラム2種類ではロシア=東欧系の作品、日本の若いソリストとの共演が目を引きます
とりわけロシア音楽には、子どもの時から魅了されてきました。広大な国土、どこまでも続く地平線、たっぷりとしたロマンティシズム・・・。2年前にチャイコフスキーのオペラ《エフゲニー・オネーギン》を指揮した際、“愛”を再確認しました。ドヴォルザークの「新世界」交響曲には、コロナ禍の世界が一刻も早く、新しい段階を迎えられるようにとの願いもこめます。
若いソリストの起用はフランクフルトでも積極化してきました。冒険には違いありませんが、いざ演奏に臨めば聴衆の反応は非常によく、熱狂してくれます。読響でも同じように取り組んでいくつもりです。
ーー1月19日のサントリーホール、第605回定期演奏会は一転して19世紀末から20世紀前半のドイツ音楽が並びます
読響との重要な仕事の一つが私の国の音楽、名刺代わりの作品群に様々な角度から継続して取り組むことです。R.シュトラウス最初の交響詩「マクベス」はヴェルディの同名オペラに比べて(知名度の点で)分が悪いのですが、シュトラウスならではの人物描写や色彩感を備えた面白い作品です。フランクフルトではライブ盤制作を兼ねたシュトラウスの管弦楽曲シリーズを指揮してきましたが、「マクベス」のウケは良く、多くの聴衆が「再発見だ!」と評価してくださいました。
「画家マティス」はヒンデミットの同名オペラの素晴らしいハイライトです。私はかつてホルン奏者だった際、コンクールに参加したフランスのコルマールにある美術館で、画家マティスことマティアス・グリューネヴァルトの“イーゼンハイム祭壇画”を観ました。ヒンデミットはその中から「天使の合奏」「埋葬」「聖アントニウスの誘惑」の3点を各楽章に充て、グレゴリオ聖歌なども引用しました。彼の他の作品にはあまりみられないspröde(シュプレーデ=もろい)な感触が際立つ、絶妙な音楽だと思います。
「フランクフルトの自宅待機中は料理に凝り、大好きなスイーツ3種類も合計8回焼いた」と打ち明けるヴァイグレ。日本で過ごす年末年始にも、新しい発見があることを祈る。
取材・文:池田卓夫
【Information】
セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団
12月〜1月公演
2020.12/16(水)19:00、 12/19(土)14:00、12/20(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
12/18(金)19:00 サントリーホール
12/23(水)19:00 大阪/フェスティバルホール
12/26(土)14:00 横浜みなとみらいホール
12/27(日)15:00 所沢市民文化センターミューズ アークホール
2021.1/9(土)、1/10(日)各日14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
1/14(木)、1/19(火)各日19:00 サントリーホール
※公演スケジュール、プログラムの詳細は、下記ウェブサイトでご確認ください。
読売日本交響楽団
https://yomikyo.or.jp