これまで、奏者としてだけでなく楽譜校訂者としてもJ.S.バッハの作品に向き合ってきた、ピアニスト、作曲家の野平一郎が、バッハにとって組曲創作の総決算だったと考えるパルティータ全曲を一夜で演奏した際のライヴ録音。一音ずつ大切に刻むように音が鳴らされ、“うまみ”が染み出すようなハーモニーが響く。野平自身ライナーで「作曲家の脂の乗り切った筆の運び」を感じると記しているが、細部まで神経の行き届いた音の連なりが、自然なうねり、流れとなって大スケールで広がる。多彩な感触の音が重なりあう第6番まで聴き終えると、充実した気持ちで満たされる。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2020年4月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:パルティータ(全6曲)/野平一郎』
J.S.バッハ:パルティータ第1番〜第6番
野平一郎(ピアノ)
収録:2019年9月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)
ナミ・レコード
WWCC7917-8(2枚組) ¥3500+税